研究実績の概要 |
近年、鉄系超伝導体FeSe(超伝導転移温度Tc = 8 K)に対して、有機分子とアルカリ金属・土類金属をインターカレートすることで、Tcが上昇することが報告されている。また、これまでの結果から、報告者は、FeSe系超伝導体においてはFe-Fe層間距離dが伸長するとTcが上昇する傾向にあることを見出した。そこで、本研究の目的は、様々な有機分子を用いてdが長い物質を合成し、高いTcを実現することと、その原因を特定し、鉄系超伝導体における超伝導発現機構を解明することで、高いTcを持つ物質を合成する指針を得ることである。本年度実施した研究を以下に示す。 1.試料作製・評価:2-フェニルエチルアミン(C8H11N)にLi,Naを溶かして、FeSeへのインターカレーションを試みた。粉末X線回折の結果から、2-フェニルエチルアミンとLi, Naがインターカレートした化合物Ax(C8H11N)yFe2-zSe2 (A = Li, Na)の合成に成功したことが確認できた。また、d = 1.9 nm(A = Li), d = 1.8 nm(A = Na)と見積もられたが、この値は、現在確認されているバルクのFeSe系超伝導体の中で最も大きい。 2.超伝導特性:Ax(C8H11N)yFe2-zSe2 (A = Li, Na)の超伝導特性を調べるために、磁化率の温度依存性を測定した。その結果、43 K付近で超伝導転移が観測された。この結果から、新FeSe系超伝導体の合成に成功したことを確認した。 Ax(C8H11N)yFe2-zSe2 (A = Li, Na)は、FeSe系超伝導体のdとTcの関係を明らかにする上で重要な物質であると考えられる。今後は、この物質の詳しい物性等を調べるとともに、他の有機分子を用いて様々なdを持った超伝導体の合成を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2-フェニルエチルアミン(C8H11N)とアルカリ金属をFeSeにインターカレートすることで、Tc~43 Kの新しいインターカレーション超伝導体Ax(C8H11N)yFe2-zSe2 (A = Li, Na)の合成に成功した。また、この物質のFe-Fe層間距離dは、d = 1.9 nm(A = Li), d = 1.8 nm(A = Na)と見積もられ、この値は、現在確認されているバルクのFeSe系超伝導体の中で最も大きい。このことから、FeSe系超伝導体において、d値が0.9 nmまでは、dの伸長に伴ってTcは上昇するが、dが0.9 nm以上になるとTcはほぼ一定になる傾向があると思われる。その意味でもTcは上昇しなかったが、dが一番伸長した物質を合成できたことは、本研究がおおむね順調に進展していることを示している。 今回得られたAx(C8H11N)yFe2-zSe2 (A = Li, Na)は、FeSe系超伝導体のdとTcの関係を明らかにする上で、重要な物質であると考えられる。今後は、この物質の詳しい物性等を調べるとともに、他の有機分子を用いて様々なdを持った超伝導体の合成を行う予定である。
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