平成28年度は,平成27年度に着手した,通常的なHilbert尖点形式の肥田変形に含まれる重さ 1 の正則Hilbert尖点形式に関する研究を進めた.本研究をまとめた論文は学術誌に掲載受理された. p を奇素数とし,総実代数体 F 上定義される並行的重さのHilbert尖点形式の肥田変形を考える.肥田の定理により,通常的な(p でのHecke作用素が可逆に作用する) Hilbert尖点形式の肥田変形には,2 以上の任意の整数 k について,重さ k の正則Hilbert尖点形式が無限に含まれる.しかし重さが 1 の場合,Ghate-Vatsalらの先行研究により,(Wilesの意味での)通常的な肥田変形に重さ 1 の正則Hilbert尖点形式が無限に含まれるためには,その肥田変形が虚数乗法を持つことが必要十分であることが知られていた. 私は平成27年度に,虚数乗法を持たない通常的な肥田変形に含まれる重さ 1 の正則Hilbert尖点形式の個数の評価を試みた.重さ 1 の正則Hilbert尖点形式を含む肥田変形は,その剰余表現の像に応じて「二面体型」「例外型」のいずれかに分類される.後者の場合はDimitrov-Ghateによる先行研究と同じ手筋で評価できた.しかし「二面体型」の場合は,彼らの先行研究で個数の評価に用いられた有限群の対応物が,無限群の場合もありうる. 平成28年度は,以下の方策に基づいてこの問題を克服した.対応する群が無限群になる場合は,通常的な重さ 1 の正則Hilbert尖点形式をその群の指標で変形して,虚数乗法を持つ肥田変形を新たに構成した.この変形はもとの変形と p を法として合同である.この結果は「肥田変形に付随するGalois表現の像」と「虚数乗法を持つ肥田変形と持たない肥田変形の間の合同式の存在」の関連を示唆しており,本研究課題の目的に適っている.
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