研究課題/領域番号 |
15J00947
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 弘了 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 映画学 / 映画研究 / 小津安二郎 / 表象 / 表象文化論 / フィルム・スタディーズ / 日本映画 |
研究実績の概要 |
1年目の研究としては次の五項目を予定していた。①小津映画のテクスト分析の継続発展。②『キネマ旬報』などの映画雑誌のバック・ナンバーの精査・整理。③松竹株式会社や東京国立近代美術館フィルムセンター、鎌倉文学館での調査。小津映画関係者(出演俳優、スタッフおよびその近親者等)への聞き取り調査。小津映画のロケーション地の実態調査。④映画の隣接諸芸術(小説、漫画、絵画、演劇、歌謡曲等)への理解の深化。同時代の社会文化史の調査。⑤学術誌、学会発表での研究成果の公表。 このうち、①、②、④についてはおおむね予定通り研究を進めることができた。特に著しい成果をあげることができたのが③に係るものである。松竹大谷図書館、東京国立近代美術館フィルムセンター、早稲田大学演劇博物館での調査に加えて、鎌倉文学館での一次資料のリサーチは予想以上に充実したものとなった。鎌倉文学館には「撮影データシート」と呼ばれる記録が大量に残っている。これは、映画撮影当時のカメラの設定や数値などを、フィルムのネガ(カット尻)とあわせて記録したものであり、脚本とともに小津映画の生成過程を辿るうえできわめて有用な資料である。また、聞き取り調査では、小津映画に撮影助手として参加していた方へのインタヴューを行った。 ⑤の研究成果の公表に関しては、査読制電子学術ジャーナルCineMagaziNet!に論文、翻訳を1本ずつ掲載した。論文では小津安二郎と是枝裕和の映画における本質的な共通点(「フラッシュバックの欠如」と「視線の等方向性」)を指摘し、小津を現代映画の文脈で捉え直すための道を探った。翻訳では、アメリカの映画批評家ジョナサン・ローゼンバウムが小津安二郎作品の特性について論じた批評的論考「小津映画は遅いか?(”Is Ozu Slow?”)」を日本語に訳した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リサーチ、研究成果の公表の両面において一定の成果をあげることができた。リサーチでは松竹大谷図書館、東京国立近代美術館フィルムセンター、早稲田大学演劇博物館、鎌倉文学館において、小津映画の脚本や撮影日程表などの一次資料を調査し、いくつもの発見を得た。小津映画の生成過程を示すこれらの資料は「小津安二郎映画における特異な空間設計および編集様式と人間精神表象の連関性研究」という課題を進める上で、きわめて重要な資料となるだろう。成果の公表に関しては、学術論文を一本仕上げ、日本映画学会大会で口頭発表を行った。リサーチの成果について、もう一本論文を仕上げるか、学会で口頭発表するかできると理想的だったが、それは二年目に持ち越すことになった。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に引き続き、小津映画に関するリサーチや資料収集、テクスト分析を進めると同時に、積極的に成果の公表を行っていく予定である。具体的には、まず5月下旬に予定されている日本映像学会大会において鎌倉文学館でリサーチを行った資料の紹介および分析結果を発表する。6月中旬には、これらの資料に基づき、いくつかのテーマに絞って映画のテクスト分析と組み合わせた成果を、日本映画学会例会で口頭発表するつもりである。その後、発表内容を論文にまとめ、日本映像学会か日本映画学会のいずれかの学会誌(『映像学』/『映画研究』)に投稿することになるだろう(表象文化論学会の学会誌『表象』も論文投稿の候補先として考えている)。電子ジャーナルCineMagaziNet!には、研究課題に関わる英語の小津論文の翻訳掲載を考えている。秋には日本映画学会の大会あるいは表象文化論学会の研究会にて、最新の成果を発表していく。また、小津映画の関係者へのインタビューや、他の小津研究者との交流を深め、研究の深度と精度を高める努力をしていく。
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