本年度における研究成果は以下の2点にまとめられる。 1 これまでの研究では、断層近傍地震動を模擬した正弦波モデルに対して、それらとフーリエ振幅スペクトルの最大値が等しいダブルインパルスとトリプルインパルスを導入し、完全弾塑性復元力特性およびノーマルバイリニア型復元力特性を有する非減衰1自由度系の「極限的ダブルインパルス」と「極限的トリプルインパルス」を明らかにした。さらに、それらに対する弾塑性応答の閉形表現を導出する方法を展開した。本年度では、完全弾塑性非減衰1自由度系の極限的ダブルインパルスに関する理論を、完全弾塑性復元力特性と粘性減衰の両方を有する1自由度系に拡張し、極限的ダブルインパルスに対する粘性減衰の影響を考慮した弾塑性応答の近似閉形表現を導出した。粘性減衰と弾塑性履歴減衰の両方を有する1自由度系に極限的ダブルインパルスの理論を拡張することにより、極限的な地震動入力を考慮した、付加的な減衰機構を有する制振構造や免震構造の設計が可能となる。 2 2011年東北地方太平洋沖地震では、1970年代の超高層建築物の設計で想定されていなかった長周期長時間地震動が観測された。本年度では、長周期長時間地震動の主要部分を表現可能である複数サイクル正弦波を、マルチインパルスで近似する方法を導入し、バイリニア型復元力特性を有する非減衰1自由度系の極限的マルチインパルスと、それに対する定常状態時の弾塑性応答(塑性変形振幅)の閉形表現を導出した。正弦波を用いた弾塑性モデルの定常応答に関する既往の研究では、弾塑性モデルの共振応答を導出するために、多くの入力振動数に対する繰り返し計算が必要であり、共振周期の導出が困難である。それに対して本研究では、マルチインパルスに対する極限的な定常状態を仮定することで、弾塑性モデルの極限応答(共振現象と対応)を、繰り返し計算無しに直接評価することが可能である。
|