本年度は、(1)失業率の変動が死亡率とどう関連しているのか、(2)就職支援プログラムが若年失業者の健康とどう関連しているのか、という2つの研究を昨年度から引き続き行った。加えて、労働と健康の関係をより明らかにするため、個票データである家計経済研究所の「消費生活に関するパネル調査」の結果を用いて以下2つの分析を行った。分析期間は2002年から2016年である。 まず、働き方が既婚女性の健康に及ぼす影響を明らかにした。この分析では、働き方を常勤雇用・非常勤雇用・非就業の3つに分類し、常勤雇用と比べたときにそれぞれの働き方と健康がどのように関連しているかを分析した。分析対象として有配偶女性に注目し、夫の働き方の影響も考慮した。分析で問題となるのは、健康な人ほど働くといった逆の因果関係である。そこで、個人の時間を通じて変化しない効果と過去の健康状態をコントロールすることでその問題への対処を試みている。その結果、夫が常勤で働いている場合よりも非常勤で働いている場合に妻の健康状態が悪い傾向にあることが示された。考察では、家計の担い手としての夫が不安定な働き方をしている場合に妻の健康状態が悪い傾向にあることが示唆される。 次に、解雇・倒産といった非自発的な失業が既婚女性の健康に及ぼす影響を明らかにした。解雇・倒産という個人にとっては予測が困難な理由での失業に注目することで、先ほど述べたような逆の因果関係に対処する。妻自身だけでなく、夫の非自発的な失業経験の影響もみる。分析手法や用いるデータは先ほどの研究と同様である。結果として、夫の非自発的な失業は妻の健康状態を悪化させることが示された。考察では、得られた結果の背景として、夫が非自発的失業をしたとき、一期前に非就業だった妻が働きに出る確率が高まること、妻の労働時間が増えること、また家計の消費が減ることが示唆されている。
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