研究課題/領域番号 |
15J00995
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鳥海 尚之 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 近赤外色素 / 計算化学 / フタロシアニン |
研究実績の概要 |
近赤外光を吸収・発光する安定な新規有機分子を創製すべく、フタロシアニン骨格に基づいた分子設計を行った。具体的には、フタロシアニンを構成するイソインドリンユニットをベンゼン環に置き換えた化合物であるヘミポルフィラジンやベンジフタロシアニンに着目し、縮環ダイマー化することで共役系の拡張を図った。理論計算による予測では、ダイマー化することにより100nmを超える吸収波長の長波長シフトが予期され、モノマーの実験値が800~850nm付近であることを考慮するとダイマー化により900~1000nm付近に吸収極大を有することが期待された。 種々条件検討の結果、フタロシアニン縮環ダイマーの合成法と同様の方法を用いることで、目的のヘミポルフィラジン・ベンジフタロシアニンダイマーが低収率ながらも得られることが明らかになった。これらの縮環ダイマーの最長吸収波長はモノマーと比較して50nmほど長波長シフトすることが判明した。また、ベンジフタロシアニンの反応性を検討する段階で、予想外にもホルムアルデヒドとの反応を発見し、高収率でメチレン架橋されたダイマーを合成することに成功した。フタロシアニン類のダイマーとしては珍しく、X線構造解析に成功し、ハの字型の構造をとっていることが明らかになった。また励起子相互作用によって吸収波長・蛍光波長ともに30nmほど長波長シフトすることが確認された。これらのダイマー群は理論計算による予測よりはやや短波長であるものの、900nm付近の近赤外光を活用できる色素として期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1年目である昨年度においては1000nm付近の近赤外領域に強い吸収を持つ分子の創製を目標としていた。ヘミポルフィラジン・ベンジフタロシアニンに着目して縮環ダイマー化した分子群は800nm~1000nmに広がる吸収帯と発光帯を有するため、目標は概ね達成されたと言える。縮環様式を変化させることでスペクトルの形状を変化させることができ、近赤外領域の微妙な吸収波長をチューニングできることも見出している。 一方、これらの縮環ダイマーはリンカー分子に過剰量の基質を混合して合成するため、低収率となってしまうのが問題点であった。その点、メチレン架橋されたダイマーは、リンカーであるホルムアルデヒドの高反応性を利用することによって高収率で合成できることを明らかにできた。メチレン架橋という様式のフタロシアニン系のダイマーの例はなく、新たな色素を合成する方法論として期待できる。また、この分子は酸性のフェノール性プロトンを有するため、酸塩基に応答して近赤外領域の光特性を制御できる機能性色素としてのポテンシャルを有すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究ではフタロシアニン骨格に基づきダイマー化を行うことで長波長の近赤外光を利活用できる色素を創製できた。ダイマー化がヘミポルフィラジン・ベンジフタロシアニンにおいても共役を拡張する有効な手段であることを示した。 今後は、近赤外色素に機能性を付与することを目標として研究を進めていく。すなわち、周囲の環境(光、熱、酸化ストレス、pHなど)に依存して近赤外特性をスイッチングできる近赤外色素の設計を目指す。引き続きフタロシアニン骨格を利用して、置換基を導入することで外部環境依存型の近赤外分子を合成していく予定である。 これらの分子を創製する過程においては、設計合成した化合物が実際には所期の物性を示さないことも考えられる。合成段階に要する試行錯誤を最小限に抑制するため、理論計算を用いた物性値の予測を行ったうえで合成に取り組んでいきたい。特に蛍光強度の予測は、一般に難しいことが知られているため、理論的な解析法の確立も目指し研究を推進していく所存である。
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