研究実績の概要 |
シリセンはシリコンからなる2次元蜂の巣格子である。シリセンはグラフェン様の特異な物性をもつことが期待されている[PRL 102, 236804 (2009)]。本研究の目的は、多様な基板上でのシリセンの合成方法を確立し、そこに潜む新しい物理、化学現象の探索と機能性材料としての可能性を探ることである。今年度は銀単結晶上に作製したシリセン多層膜の構造解析を行った。 シリセンは銀表面にシリコンを蒸着することで合成できる。銀上のシリセンはシリコン蒸着量に応じて単層膜、多層膜を形成する [SUSC 608, 297 (2013)]。このうち多層膜が2次元的な電子を持つとの報告があり注目されている[PRL 109, 056804 (2012)]。しかし、その構造は複数のモデルが提案されており確立していない[PRB 89, 241403 (2014),JPCM 25 085508 (2013)]。 本研究では低速電子回折(LEED)と走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて銀単結晶上のSi多層膜の構造を明らかにした。LEEDスポットの強度を入射電子のエネルギーの関数としてプロットした(I-V曲線)。実験で得たI-V曲線を動力学理論に基づいたシミュレーションと比較した。蜂の巣格子が積層した構造は実験データを再現しなかった。一方、シリコン表面でよく知られたSi表面に銀が吸着した構造(√3x√3Ag/Si(111))は実験データをよく再現した。また、STM像の試料電位依存性は√3x√3Ag/Si(111)のそれと一致した。以上から銀上のSi多層膜は√3x√3Ag/Si(111)と同一であると結論した[SUSC 651, 70 (2016)]。本研究は固体物理分野で話題の物質が既知のものであることを明確に示した成果である。
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