研究課題/領域番号 |
15J01103
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金谷 翔子 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 視覚 / 聴覚 / 感覚間協応 / fMRI / MVPA |
研究実績の概要 |
感覚間協応とは、例えば高い音から明るい色、低い音から暗い色が連想されるというように、直接的な関係のない二つの感覚属性の間に感じられる対応関係のことである。これは単なる連想ではなく、心理課題における反応時間、および眼球運動、脳波といった生理指標にも反映される。しかし、実際に我々の脳におけるどのような処理が感覚間協応につながるのかは分かっていない。本研究では、fMRIを用いて健常成人被験者の脳活動を計測し、MVPA(multi-variate/voxel pattern analysis)解析によるモダリティ内/間デコーディングを行うことで、感覚間協応に関わる脳情報処理について検討を行った。視覚刺激は、曲線によって構成された図形(曲線図形)と、鋭角で構成された図形(鋭角図形)であった。また、聴覚刺激として、様々な音響特徴を複雑に操作した多数の音の中から、上述の視覚刺激のそれぞれに最も合う(協応を感じる)と多くの被験者が感じるものを選択した。各刺激をランダム順で2回ずつ呈示するブロックを、全部で10回繰り返し、これらの視覚刺激、または聴覚刺激を被験者が観察している際の脳活動を計測した。解析は以下のように行った。あるブロックを除いた全9ブロック分のデータを用いて、例えば曲線図形を見ている時の脳活動と、鋭角図形を見ている時の脳活動を弁別するよう、コンピュータに機械学習させた。その上で、最初に除いたブロックで取得したデータを入力し、学習させた二種類の刺激(e.g. 曲線図形or鋭角図形)の弁別が正しく行えるかをテストした。学習に用いる刺激のモダリティと、テストに用いる刺激のモダリティが同じであるモダリティ内デコーディングだけでなく、学習時とは異なるモダリティの刺激でテストするモダリティ間デコーディングを行うことで、抽象的な刺激に関するクロスモーダルな脳内表現について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は抽象的な視聴覚情報の間のつながりである感覚間協応について検討することが本来の目的であるが、研究を遂行する上で、外界に実際に存在する具体的な視聴覚情報の間のつながり(e.g. 動物の写真と鳴き声)と感覚間協応の関係をつきとめることも、重要な課題であることが判明した。そのため、本研究では、抽象的な視聴覚刺激(e.g. 曲線図形、曲線図形に合うと感じられる音)のみならず、具体的な視聴覚刺激(e.g. 楽器の写真、その楽器の音)も用いてMVPA解析を行うこととした。その結果、抽象刺激、具象刺激のどちらでも、モダリティ内デコーディングのみならず、モダリティ間デコーディングが、少なくとも一部の脳領域において有意にチャンスレベルより高い正答率で行えることが分かった。さらに、モダリティ間デコーディングの結果が、抽象刺激と具象刺激とで異なっている部分があった。このような展開は、当初は計画されていなかったにもかかわらず、人間の感覚情報処理システム全体にかかわる重要な示唆をもたらすものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、26名の被験者のデータを解析した結果が明らかになっているが、刺激観察中の課題により二群に分けて実験を行っているため、まだ被験者数が不足している。そのため、10名弱の被験者を追加することが急務である。また、現在はサーチライト解析(脳表上に定義した無数の小さな領域に対してMVPAを行い、特に正答率の高くなる脳領域を脳全体の中から探す)のみを行っている状態であるが、ROI解析(解剖学的あるいは機能的に定義した特定の領域のボクセルでMVPAを行う)を合せて行う必要がある。また、これらの解析から得られた結果によって、今後様々な手法で新たな解析を進めていく。本研究の結果について、2016年度中に少なくとも一件の学会発表を予定しており、結果が十分に議論された暁には、学術誌への論文投稿を行う予定である。
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