研究課題/領域番号 |
15J01117
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
望月 昂 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 被子植物 / 花 / 送粉者 / 共存 / 長角亜目双翅目 |
研究実績の概要 |
動物媒の送粉様式の獲得は白亜紀以降の被子植物の多様化に貢献したと考えられているが、その具体的なメカニズムはよく分かっていない。本研究では送粉者をたがえることが生殖前隔離を達成し、植物の共存を可能にすることで植物の種多様性に貢献しているという仮説を提示し、検証を行っている。主な材料であるニューカレドニア産のコミカンソウ属植物は、以前の研究により、数種の植物が幼虫期に種子を食害する種特異的なハナホソガ(ホソガ科)によって送粉されることが明らかとなっている。そのため、およそ110種のコミカンソウ属植物はハナホソガ媒であることが予想されていたが、調査によって、多くの植物は長角亜目昆虫(タマバエ科、キノコバエ科など)に送粉されていることが示唆された。また、これらの植物はいずれも深紅色の花被片を持っており、長角亜目昆虫による送粉との強い関連が示唆された。長角亜目昆虫による送粉は被子植物の中で例が少なく、基本的な自然史が分かっていないが、2015年度の研究から、深紅色の花弁と長角亜目昆虫との関連はコミカンソウ属だけでなく、広く被子植物一般に観察できるものである可能性が示唆された。また、長角亜目昆虫によって送粉されている植物種群はテンナンショウ属、カンアオイ属、ニシキギ属など、顕著に種多様かつ共存種数の多いグループを含むことが分かった。特に、しばしば5種以上の種が共存するニシキギ属植物においては、深紅色の花弁を持つ種と持たない種が共存していることが示唆された。このことは本研究の仮説を支持しており、2年度目には、その仮説の確からしさを検討するために主にニシキギ属に着目して送粉様式と共存パターンの解明を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は近縁な植物種間の共存における送粉者の機能に着目したものであり、2016年度に行ったニシキギ属の調査からは興味深い結果が得られた。ニシキギ属はアジア・北米などに130種を擁する分類群で、日本にはおよそ20種が分布する。主な調査地である白山では、5種のニシキギ属植物が共存していること、また、北海道利尻島においては、ごく近縁な深紅色の花を持つクロツリバナと、緑色の花を持つオオツリバナが同所的に、同時期に開花していることが明らかとなった。興味深いことに、これらの植物では主な送粉者が異なり、クロツリバナはキノコバエやクロバネキノコバエなどの長角亜目昆虫、オオツリバナはコウチュウやハナバチが主たる送粉者であった。2種は非常に近接して開花しているが、訪花者層は大きく異なり、また生育地には雑種が存在していなかったことから、送粉者による生殖隔離が働いている可能性が示唆された。また、ニシキギ属9種の送粉様式の調査から、深紅色の花を持つ種は長角亜目、特にキノコバエ類によってもっぱら送粉されていること、非深紅色の花を持つ種はハナバチ・コウチュウ・ハエに送粉されていることが明らかとなった。また、深紅色の花はニシキギ属の中で独立に進化していることが分かっており、ニシキギ属では深紅色の花の進化とキノコバエ類の進化に深い関連があることが示唆された。ニシキギ属植物の中では、一部の共存する種ペアにおいて、送粉者の違いが見出されたが、その他の種ペアは、一見送粉者層に大きな違いはなく、むしろ、開花フェノロジーやハビタットの違いで共存が可能になっていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
ニシキギ属において、共存する植物種間では送粉者層が異なることが示唆された。しかし、多くの種ペアはそのフェノロジーが異なっており、植物の共存に送粉者の違いが重要であるかどうかという問いは、ニシキギ属においては必ずしもすべての共存する種ペアに適用できるものではないと考えられる。そこで、本研究の仮説の妥当性・一般性をさらに検討すべく、ニシキギ属同様に近縁種間に共存パターンの見られるシソ科ヤマハッカ属を材料に加え研究を行う。シソ科ヤマハッカ属では、スズメバチ媒のクロバナノヒキオコシと、マルハナバチ媒のその他の種間で共存が可能になっていること、ある地域ではその共存が崩れ、雑種形成が進んでいることが事前の調査より明らかになっている。そのため、ニシキギ属における共存パターンの解明に加え、ヤマハッカ属において、送粉者がどのように共存に影響しているかについて、また、雑種形成の進んでいる地域個体群とその他の個体群における送粉者層の調査から、送粉者が近縁な植物種間の共存に与える影響について研究を行う。
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