研究課題/領域番号 |
15J01153
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 達郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ホヤ / 転写 / 細胞分裂 / RNAポリメラーゼII / BZ / Brachyury / FoxA.a / ZicL |
研究実績の概要 |
本研究はホヤ初期胚をモデルとして、遺伝子発現が細胞周期と同期してどのように時間的に調節されているか、それがどのように正常な発生の進行を可能にしているかを明らかにすることを目的とする。 ホヤ胚における遺伝子の転写の時間的動態を明らかにするため、受精卵、2細胞期、4細胞期、8細胞期、16細胞期、32細胞期、64細胞期の各胚をもちいてRNAポリメラーゼII(Pol II)に対する抗体をもちいたChIP-seqをおこなった。この結果、4細胞期以前の胚では遺伝子の転写伸長がおこなわれておらず、8細胞期以降から約200の遺伝子で転写の伸長が活性化することが明らかとなった。これらの遺伝子の大多数は転写伸長の開始以前からプロモーターにPol IIがストールおり、そのPol IIのストールは受精後徐々に現れることが分かった。 M期移行抑制因子Wee1の強制発現、および翻訳阻害剤シクロヘキシミドをもちいた実験により、胚が8細胞期以降から転写伸長を開始するためには、4細胞期以降の細胞分裂および2細胞期以降のmRNAの翻訳は必要でないことが示唆された。 遺伝子発現の時間的調節を調べる中で、32細胞期における細胞分裂と同期した転写因子FoxA.aの発現終了が、転写抑制因子BZ1による抑制でなされていることを発見した。BZの機能阻害胚では、動物極側に転写因子ZicLおよびFoxA.aの発現の重複が異所的に現れてしまい、脊索の運命決定をする転写因子であるBrachyuryが予定脳細胞で異所発現してしまう。動物極側において、BZという転写抑制因子がZicLとFoxA.aの発現を時間的に分離することが、これらの因子の共存在による脊索のプログラムの異所的な活性化を回避し、同じ転写因子を脳の運命決定にもちいることを可能にしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおりホヤ初期胚の各細胞分裂の前後でPol IIに対するChIPseqにより転写の時間的な動態変化を確認できた。その結果、初期胚で発現する遺伝子の大多数において、転写伸長の開始する前の細胞分裂の段階からプロモーターにPol IIが結合していることを明らかにできた。 当初予定していた細胞周期阻害剤をもちいた転写と細胞分裂の関係性の解析は、既存の細胞周期阻害剤それ自体が細胞周期と独立に転写の伸長を阻害することが示唆された結果、最初の予定どおりに解析を進めることが困難となった。 しかしながら、FoxA.aの細胞周期と同期した発現終了とその発生における必要性について、当初予定していなかった重要な発見をすることができた。また、初期胚における最初の転写を開始する機構について新たな理解の進展があった。 総合して、動物の胚発生における遺伝子発現の時間的な調節の理解を深める重要な生物学的知見を得られていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
Pol IIに対するChIP-seqの結果をさらに生物情報学的に解析し、論文にまとめる。また、BZによるFoxA.aの抑制機構およびその発生における意義についてさらに実験を進め論文にまとめる。
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