昨年度におこなった初期胚におけるRNAポリメラーゼII(Pol II)に対する抗体を用いたChIP-seqの情報解析手法を見直した。その結果、8細胞期から44個、16細胞期から195個の遺伝子が転写を開始すると評価された。今回の結果から新たに初期胚で転写されると予想された遺伝子は、実際に逆転写-定量PCR法により転写産物の増加を検出することができた。これら最初期に転写が開始される遺伝子の71%は、転写開始以前の発生段階で転写開始点付近にPol IIが結合して停止していた。このような動態の観察は他の動物の胚性の転写開始以前では観察されておらず、異なる動物間では胚性の転写開始期にPol IIをリクルートする機構に違いがあることを示唆している。 また昨年度に、転写抑制因子Prdm1-r.a(BZ1)、Prmd1-r.b(BZ2)およびHes.aの同時機能阻害胚では、脳の系譜で異所的に転写因子Brachyuryが発現し脊索の発生プログラムが活性化してしまうことを見出した。Prdm1-r.a、Prdm1-r.bおよびHes.aは転写因子Foxa.aとZic-r.bの発現を時間的に調節しており、この時間的な調節が機能しなくなるとFoxa.aとZic-r.bが予定脳細胞細胞で同時に発現してしまい(脊索の系譜で見られる調節)、このような異所的なBrachyuryの活性化につながることがわかった。本年度は上記の同時機能阻害胚で脊索の分化マーカー遺伝子が実際に脳の系譜で異所発現していることを確認した。また、脳の初期マーカー遺伝子の発現は消失していないことを見出した。さらにFoxa.aとFgfシグナリングがPrdm1-r.aの発現を32細胞期に活性化していることを明らかにした。こうして、脳と脊索の発生運命の決め分けに働くFoxa.aとZic-r.bの発現の時間的な調節の巧妙な仕組みが明らかとなった。これらの成果を筆頭著者として論文にまとめDevelopment誌に発表した。
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