研究課題/領域番号 |
15J01158
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮嶋 佑典 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | メタン / 冷湧水 / 炭酸塩 / バイオマーカー / 吸着ガス |
研究実績の概要 |
第1年次までに日本海側地域11か所で採取した前期中新世~中期更新世のメタン湧水炭酸塩岩,および上越沖海鷹海脚の現世メタン湧水炭酸塩岩のバイオマーカー分析を行った.その結果,ほとんどの炭酸塩岩より嫌気的メタン酸化古細菌のバイオマーカーであるペンタメチルイコサン(PMI)やクロセタン,ビフィタンが抽出できた.各産地で湧水中に含まれていたメタンの起源を明らかにするため,メタン酸化古細菌のバイオマーカーの個別炭素同位体比分析を行った.上越沖海鷹海脚のメタン湧水炭酸塩より抽出したPMIと,湧水中のメタンとの間での炭素同位体分別係数を算出し,その値を中期中新世~中期更新世の試料のPMIの炭素同位体比に加えると,ほとんどの産地で炭素同位体比の低い微生物メタンが湧出していたことが推定できた.このことは,日本海側地域の冷湧水の起源が,更新世以前と現世で異なっていたことを示唆する. バイオマーカー分析に用いたのと同じ炭酸塩岩試料を用い,炭酸塩吸着ガスの抽出および分析を行った.その結果,前期中新世~前期鮮新世の試料よりメタンおよびエタン,プロパン,ブタンの抽出に成功した.抽出されたメタンの炭素同位体比を分析したところ,熱分解起源と微生物起源の両方に相当する炭素同位体比を示した.また,抽出されたガスはメタンの同位体比によらずメタン/(エタン+プロパン)比が小さく,熱分解ガスの組成をもっていた. 各産地の炭酸塩岩中のバルク有機炭素の同位体比を測定したところ,炭酸塩岩中には通常の堆積有機物よりも炭素同位体比の低い有機物が含まれていることがわかった.このことから,メタン湧水炭酸塩岩から抽出した吸着ガスは,埋没時に地層中の熱分解ガスが吸着したか,熱熟成により炭酸塩岩中の有機物からの熱分解で生成したものと考えられる.この結果は冷湧水炭酸塩岩の被る続成作用に関して新たな知見をもたらす.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第1年次までは,地質時代の冷湧水炭酸塩岩試料のみを対象に,バイオマーカーや吸着ガスといった各種の分析を行い,過去の冷湧水中のメタンの起源を推定する予定であった.第2年次では,当初予定していなかった現世の上越沖海底で採取されたメタン湧水炭酸塩岩試料の入手に成功した.これにより,現世でのバイオマーカーと湧水メタンとの間での炭素同位体分別を明らかにすることができ,バイオマーカーの炭素同位体比から過去の湧水中のメタンの起源を推定するうえで重要なデータを得ることができた.また,前期中新世~現世までの各時代の試料を入手し,各試料の薄片観察や酸素同位体比分析,バイオマーカー分析を行ったことで,冷湧水炭酸塩岩が埋没と熱熟成の過程で被る続成作用についての知見も得られた.これは炭酸塩吸着ガスの分析結果を解釈するうえでも意義のあるデータとなった.
|
今後の研究の推進方策 |
第2年次までに収集したデータをまとめ,投稿論文および博士論文の執筆を進めていく.4月に予定しているEGU General Assembly 2017(ウィーン)での発表を含め,学会での発表も随時行う.また,冷湧水中のメタンの起源に関する補足データとして,炭酸塩岩の希土類元素濃度パターンの分析を行い,湧出流体の起源推定を試みる.
|