研究課題/領域番号 |
15J01164
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
阿久井 康平 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 包括的橋梁デザイン / 水辺近郊の市街地 / 近代都市形成 / デザインヒエラルキー / 構造形式 / 意匠 / 景観デザイン |
研究実績の概要 |
本年度は、東京、大阪、横浜、神戸、名古屋の5つを対象とした。調査・収集した各事業誌・計画史より、東京は近代商工都市、大阪は近代産業都市、横浜は国際港湾都市・工業都市、神戸は国際港湾都市、名古屋は近代産業都市という都市像を目指し、街路・河川・運河の都市計画事業と連動した近代都市形成を明らかにした。事業規模の大きい東京は136橋、大阪は226橋、横浜は120橋と橋梁数が相対的に多く、神戸は16橋、名古屋は59橋と少ないことが明らかとなった。 さらに、各事業誌・計画史より橋梁の[構造形式][意匠]に関する記述を『デザインヒエラルキー』に基づいて抽出し『包括的橋梁デザイン』の手法や特徴の全体像及び固有特性を分析した。その結果、東京は新市街地と隅田川軸の並列的な核、大阪は新市街地や周縁河川を核に【点的】【隣接配慮的】【線的】のスケールを横断、連合した[構造形式]の【面・群的】な空間的展開が明らかとなった。横浜は、港湾部の新市街地を核に【点的】【隣接配慮的】【線的】が総体となった【面・群的】の空間的展開、神戸は【点的】【線的】の事例、名古屋は、新市街地の骨格を担う近代街路や運河を核とした【線的】の連関が【面・群的】の空間構成に寄与していることが明らかとなった。 以上より、市街地の近代都市形成の構成やスケールは異なるものの、都市像を見据えた都市計画事業と連動し【点的】【隣接配慮的】【線的】の連関による『包括的橋梁デザイン』の空間的展開や固有特性を明らかにした。特に、東京や大阪では[構造形式]の空間的展開が【面・群的】な『包括的橋梁デザイン』を構成する重層性が明らかとなり、戦略的な景観デザインの方向性を示す上での橋梁デザインのアプローチ手法として、河川交差部との関係、市街地を貫通する街路軸や流軸といった空間軸、市街地の都市構造など周辺市街地との関係を捉えることが重要であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で述べた一連の研究成果をfirst authorとして査読論文に投稿を行い、掲載された(阿久井康平・嘉名光市・佐久間康富『市区改正条例準用都市における水辺市街地の近代化と橋梁デザインの特徴』,土木学会論文集D1(景観・デザイン),Vol.71,No.1,pp.37-55,2015年7月)。また、研究課題に関連する実践活動を国際学会で発表し、専門家と意見交換を行った(Masaya Shirotani, Kohei Akui,『harmonized』,International Association for Bridge and Structural Engineering,Young Engineers' Workshop,Workshop on “Elegance in Structures” -the footbridge-,Nara,2015.5)。 本年度は、次年度に実施予定の広島、長崎において、本年度と同様の分析を行うために、各事業誌・計画史及び図面や写真などの史料を各自治体、図書館でのヒアリングをもとに調査した。 加えて、ディテール分析を行うにあたり、大阪の橋梁に関する「総務省所管マイクロ図面」「埋立河川上橋梁縮小一般図」「古い橋梁の図面集」「大阪市橋梁写真集」という4つの未公表の図面・写真集を発掘した。これらの図面・写真集より、全154橋の事業費、高欄、親柱、照明柱形状といった諸元を把握し、数量化Ⅲ類やクラスター分析を行い[意匠]の側面から、場所特性に応じた『包括的橋梁デザイン』の特徴の全体像を解明した。これらの成果をfirst authorとして査読論文に投稿を行い、現在、修正対応中である(阿久井康平・嘉名光市・佐久間康富『大阪第一次都市計画事業の橋梁意匠にみる橋梁付属物と市街地における時空間的展開』、土木学会論文集D1(景観・デザイン))。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策を以下に示す。 1:first authorとして投稿を行った、以下の査読論文の修正対応を完了させる(阿久井康平・嘉名光市・佐久間康富『大阪第一次都市計画事業の橋梁意匠にみる橋梁付属物と市街地における時空間的展開』、土木学会論文集D1(景観・デザイン))。 2:広島、長崎に関する各事業誌・計画史及び図面や写真等の史料を調査した結果、現状では、東京、大阪、横浜、神戸、名古屋と同等に比較検証できる史料が見当たらないため、引き続き、関係機関へのヒアリングを通じ、史料収集を行う。 3:ディテール分析を行うにあたり、大阪にとどまらず、その他の市街地において、図面や写真集などの史料収集を行う。 4:2と3の史料を引き続き調査し、これまでの研究成果と同等に比較検証できる史料が見当たらない場合、その対応策として、未公表の図面・写真集や橋梁デザインに関与した技術者・建築家の論考といった史料が豊富に確認できる大阪に焦点を当て5の分析を行い、知見の深度化を図る。 5:大阪では、4つの未公表の図面・写真集が発掘され、全154橋の事業費、高欄、親柱、照明柱形状、竣工年、幅員、橋長など全15の共通カテゴリが明らかとなった。そのため、橋梁単価(=事業費/幅員*橋長)を算出し「単価が高いほど意匠上配慮された」という仮説のもと、橋梁単価を外的基準とした数量化Ⅱ類を行い、橋梁単価に影響を与えるカテゴリ間との関係性を分析する。また、大阪では「座談会録」「専門雑誌」など、豊富に確認できる橋梁デザインに関与した技術者・建築家の論考を収集・分析し、『包括的橋梁デザイン』との関係を照合する。特に、中心人物である大阪市技師堀威夫が『包括的橋梁デザイン』の展開について果たした役割について考察を行う。研究成果が一定量蓄積すれば、日本建築学会計画系論文集などの査読論文に投稿、土木史研究発表会などにて学会発表を行う。
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