CRISPR/Cas9 システムは近年爆発的に普及し始めているゲノム編集技術であり、医学および農学分野への応用が期待されている。しかし医学あるいは農学分野への応用に際して、いかに部位特異的にゲノム編集を実施できるかが課題の一つである。現在までの研究で、我々はgRNAの発現誘導を部位特異的な発現に適した単一のRNA polymerase II系プロモーターを用いてヒト培養細胞系において機能するCRISPR/Cas9 システムの開発を行ってきた。この手法では時期あるいは部位特異的な発現誘導をするプロモーターが確立されている組織・細胞種でのゲノム編集には有用であるが、特異的なプロモーターがない組織・細胞種でのゲノム編集は実行できないなどの問題点もある。そこで、CRISPR/Cas9 システムの生体における時期・部位特異的な遺伝子改変の汎用性を高めるため、生体組織へ直接注入し部位特異的なゲノム編集への応用が進められているアデノ随伴ウイルスの生産法の習得を試みた。ウイルスベクターの生産は既報の論文を参考に行い、安定的に高力価のウイルスベクターを生産することが可能となった。次に神経細胞を標的とし、ウイルスベクターの部位を限局した注入法の習得を試みた。部位を限局したウイルスベクターの導入を評価するために蛍光タンパク質発現ウイルスベクターを生産し、大脳の特定に部位へ注入し、それぞれの部位限局的に蛍光タンパク質が発現することを確認した。脊髄においても同様に、特定の脊髄レベルに限局したウイルスベクターの導入が達成できた。脳あるいは脊髄へのウイルスベクター注入による運動障害は認められず、組織へのダメージは最小限であることが確認された。 現在はウイルスベクターを利用したCRISPR/Cas9 システムの系の確立に取り組んでいる。
|