研究課題
本研究は英語学習者のテキスト読解を対象とし、詳細情報を要約してメインアイディアを理解する帰納的なプロセスや、メインアイディアの内容を個々の詳細情報の理解に適用していく演繹的なプロセスの検証を目的としている。平成27年度は読解後にプライミング刺激を伴う再認課題を実施したが、課題によって結果が異なる可能性も指摘されている。そこで平成28年度は、前年度の追従として、帰納的・演繹的なメインアイディア理解が読み手の心内で活性化されているかを検証した。具体的には、文章読解後に詳細情報(帰納的なプロセスに相当)、テキスト全体のメインアイディア(演繹的なプロセスに相当)、非明示情報(統制条件)をプライミング刺激として提示し、その後にパラグラフのメインアイディア(ターゲット)に対する語彙性判断課題が行われた。分析の結果、ターゲットの正反応時間にプライミング刺激の種類による差は見られず、読み手の心内において、パラグラフのメインアイディアと上位・下位の情報とのつながりが強くは活性化されていなかったことが示された。一方、顕著な差ではないものの、正反応率はプライミング刺激が統制条件のときより詳細情報のときの方が高い傾向にあった。したがって、強くは活性化されていないものの、パラグラフのメインアイディアが詳細情報と帰納的に結びつけられている可能性が示唆された。この結果は、演繹的なプロセスに相当するプライミング刺激がターゲットの正再認率を向上させた前年度と異なるものであった。その一因として、前年度の再認課題は語彙性判断課題と異なり、理解内容の想起が必要だったことがあげられる。そのため、読み手が自身の理解を整理し、全体のメインアイディアとパラグラフのメインアイディアが結びつけられたことが考えられる。1, 2年目の結果から、課題の性質により、演繹的なメインアイディア理解が促される可能性が示唆されたといえる。
2: おおむね順調に進展している
実験の実施によって新たな発見や進捗が得られた.また,本年度の研究結果は関連する学会で発表されて一定の評価を得ている。
3年目は、読解中のプロセスを厳密に測定する手法(読解時間測定法、思考発話法など)と読解後に定着した記憶を測定する手法(筆記再生課題など)を用い、学習者がメインアイディアを理解して記憶に定着するまでの一連の過程を検証する。その際、通常の条件と、読み手の注意をメインアイディア理解に向ける指示や課題を伴う条件を設け、結果の比較を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
JACET (The Japan Association of College English Teachers) Journal
巻: 61 ページ: 89-107