研究課題/領域番号 |
15J01317
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
木村 豊 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 集合的記憶 / 戦争災害 / 空襲 / 原爆 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に引き続き、東京大空襲と広島原爆という二つの戦争災害の集合的記憶を比較分析する本研究全体の枠組みを再検討するとともに、前年度の調査で得られた資料の分析と並行して、本研究の中心的な調査を進めた。特に本年度進められた調査研究は、次の4点である。 第一に、前年度に引き続き、近年の集合的記憶に関する研究動向を検討するとともに、近年の社会調査に関する研究動向を検討した。本年度は特に、戦争の記憶を記述分析するための理論枠組みについて検討するとともに、それを具体的な事例に基づきながら論じるための聞き取り調査・観察調査の手法について検討した。 第二に、前年度に引き続き、被災地域の各社会的集団(行政・当事者団体・宗教集団・地域集団など)内の戦争災害の表象に関する観察調査および文献調査を進めた。本年度は特に、中心的な被災地域で行われている慰霊・追悼行事を写真・映像で撮影するヴィジュアル調査を行うとともに、その関係者に対して聞き取り調査を行った。 第三に、前年度に引き続き、戦争災害当事者(体験者と遺族)に対する聞き取り調査を進めた。本年度は特に、前年度に行った聞き取り調査の補足調査を行うとともに、新たに関係団体から紹介を得て、東京大空襲と広島原爆の体験者・遺族に対して生活史の聞き取り調査を行った。また、聞き取り調査で得られた音声資料のデータ化を進めた。 第四に、前年度に引き続き、戦争災害の記憶を継承しようとする活動者(戦争災害非当事者)に対する聞き取り調査を進めた。本年度は特に、前年度に戦後70年目という状況をめぐって進められた戦争災害の体験を語り継ぐ活動に対して行った観察調査の補足調査を行うとともに、その主催者および参加者に対して聞き取り調査を行った。 以上の調査で得られた資料を整理するとともに暫定的な分析を進め、学会で報告するとともに学会誌に論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究計画の2年目にあたる本年度は、計画していた通り、本研究の中心的な調査を進めることが出来た。その内容として、次の4点が挙げられる。 第一に、戦争災害の記憶について研究するための枠組みの検討として、歴史的な出来事の記憶とそれを直接経験した当事者世代の減少に関する先行研究を中心に、集合的記憶論についての検討を行うとともに、写真や映像を撮影するヴィジュアル調査に関する先行研究を中心に、調査の方法論についての検討を行った。 第二に、戦争災害の記憶を表象する社会的集団に関する調査として、前年度に引き続き、東京大空襲と広島原爆の中心的な被災地域に建立されているモニュメント(慰霊塔・追悼碑・地蔵尊など)の悉皆調査の補足調査を行うとともに、新たに慰霊・追悼行事15事例の観察調査とその関係者への聞き取り調査を行った。 第三に、戦争災害の記憶を想起する個人に関する調査として、前年度に引き続き、東京大空襲と広島原爆の体験者・遺族に対する聞き取り調査の補足調査を行うとともに、新たに東京大空襲と広島原爆の体験者・遺族5名に対する聞き取り調査を進め、生まれてから現在に至るまでの生活史の聞き取り調査を行った。 第四に、戦争災害の記憶の継承に関する調査として、前年度に戦後70年目という状況をめぐって進められた戦争災害の記憶を継承しようとする活動の補足調査を行うとともに、その関係者への聞き取り調査を行った。また、5月にはアメリカ大統領広島訪問時の広島市内の状況について現地で観察調査を行った。 以上の調査で得られた資料をとりまとめながらその分析を進め、学会で報告(「都市戦争災害の慰霊空間と集合的記憶―横網町公園における「政教分離」問題に着目して」)するとともに学会誌に論文を投稿(「社会学はいかに空襲を記述できるのか?」)した。以上の点から、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後(3年計画の3年目)は、1・2年目に進めた調査研究の成果を踏まえて、本研究全体のとりまとめを進めていく。具体的には、次の4点において調査研究を進めることを予定している。 第一に、戦争災害の記憶を比較分析するための枠組みの検討として、集合的記憶論および社会調査論に関する海外の研究動向を検討する。特に、1・2年目の調査で得られた具体的な資料をもとに、集合的記憶を比較分析するための理論的な枠組みを再検討する。 第二に、戦争災害の記憶を表象する社会的集団に関する調査として行ってきた戦争災害の慰霊・追悼行事の観察調査で得られた資料の分析を進める。特に、東京大空襲と広島原爆の間に見られる死者の表象の差異に注目しながら、社会的集団の中でいかに戦争災害の記憶が表象されているのかについての分析を進める。 第三に、戦争災害の記憶を想起する個人に関する調査として行ってきた戦争災害当事者(体験者と遺族)に対する聞き取り調査で得られた資料の分析を進める。特に、東京大空襲と広島原爆の間に見られる被災体験の語りの差異に注目しながら、当事者の中でいかに戦争災害の記憶が想起されているのかについての分析を進める。 第四に、戦争災害の記憶の継承に関する調査として行ってきた戦争災害の記憶を継承しようとする活動の観察調査とその活動者に対する聞き取り調査で得られた資料の分析を進める。特に、東京大空襲と広島原爆の間に見られる継承活動の差異に注目しながら、それらの活動の中でいかに戦争災害の記憶が継承されているのかについての分析を進める。 以上の分析を進めながら、その成果を学会で報告するとともに学会誌に論文を投稿する。翌年度は特に、東京と広島における戦争災害の集合的記憶について、全体を通した基礎的な分析を進めるとともに二つのあいだの差異についての詳細な分析を進め、随時学会発表および論文投稿を行う。
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