研究課題/領域番号 |
15J01345
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小幡 一平 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | インフレーション期のゲージ場の粒子生成 / パリティ対称性の破れたカイラルな原始重力波の生成 |
研究実績の概要 |
私の研究目的は、初期宇宙のインフレーション期の電弱理論に基づいたゲージ場のダイナミクスから、現在の宇宙空間に存在する銀河間磁場の起源が説明可能かどうかを明らかにすることでした。当該年度はインフレーション期のゲージ場の量子ゆらぎの性質を調査し、磁場の種となるゲージ場の粒子生成がどの様に引き起こされるのか、それが他の物質場や重力場に影響を与えないか等を、高エネルギー理論(超弦理論や超重力理論)が引き起こすインフレーションモデルにも注目して解析を進めました。 すると、超弦理論等から予言されている、「アクシオン」と呼ばれるパリティ対称性を破る素粒子がインフレーション期にゲージ場と強く結合していた場合、ゲージ場の偏光一成分のみの粒子生成が引き起こされることがわかりました。その結果、重力場の量子ゆらぎも円偏光を受け、通常とは異なるパリティ対称性の破れたカイラルな原始重力波が生成されることがわかりました。その成果として、私は当該年度にカイラルな原始重力波が将来の重力波干渉計(DECIGO, eLISA)などで検出される可能性があることを発表しました(雑誌論文欄を参照)。原始重力波はインフレーション期の存在を裏付ける重要な観測量であり、昨年度にLIGOチームによる天体起源の重力波の初の直接検出もなされ、今後益々その検出の意義が増していきます。そしてカイラルな原始重力波が実際に観測されれば、初期宇宙のゲージ場のダイナミクスへの理解が深まると共に、高エネルギー理論がインフレーションを引き起こしていた有力な示唆を与えます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私は、本研究課題の主要なテーマであるインフレーション期のゲージ場の役割を調査し、当該年度中に2本の学術論文(内、1本は投稿中[文献1])を発表しました。昨年度の学会発表ではゲージ場によるカイラルな原始重力波の生成機構について、国内では3つ、国外では2つの学会で発表しました(学会発表欄を参照)。また、当研究の理解を深めるために、イギリスのICG(ポーツマス大学)でセミナーも行い、研究室の方々との議論を行いました。これらの成果を踏まえ、概ね順調に課題状況が進展していると判断しました。
参考文献)[1] I.Obata and J.Soda, “Chiral Primordial Gravitational Waves from Dilaton Induced Delayed Chromo-natural Inflation” arXiv:1602.06024 [hep-th] (Physical Review D に投稿中)
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今後の研究の推進方策 |
カイラルな原始重力波がどの程度普遍的に生成されるのかを調べるために、ゲージ場以外の物質場などでもカイラルな原始重力波が生成されないかを検証します。また、高エネルギー理論のより詳細な議論に基づいて、重力波生成に関係するアクシオンの持つ崩壊定数の大きさやインフレーションのポテンシャルの形状などを調査し、宇宙論的に新奇な現象が予言されないかも検証します。当初の課題である原始宇宙磁場生成機構の研究計画からの変更の対応策として、インフレーション中のゲージ場の役割は今後も継続して調査し、原始重力波と同時に原始宇宙磁場もゲージ場によって生成される可能性がないかを検証する予定です。
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