我々は前年度に引き続き、宇宙のインフレーション期におけるゲージ場のダイナミクスから生成される原始重力波について、理論的・観測的双方の側面から研究を行った。通常、原始重力波は真空の揺らぎがインフレーションの加速膨張で引き延ばされて生成され、観測するスケールに依らないほとんど一定の大きさのパワースペクトルを予言する。しかし、インフレーション期にゲージ場がスカラー場と結合していると、スカラー場の運動によってゲージ場が増幅し、成長したゲージ場が通常とは異なる統計的情報を持った原始重力波を作る可能性があることが知られている。 当該年度、我々はインフレーション期にゲージ場が主要な役割を果たす代表的なシナリオである「非等方インフレーション」について、原始重力波の生成機構に焦点を当てた研究を行った。このシナリオではゲージ場が成長し、ベクトル場の方向に依存して原始重力波に統計的非等方性を作ることが知られている。しかし、現在までの宇宙背景放射(CMB)の観測データからその大きさは非常に小さい値に制限されていると思われてきた。 本研究を進めていく中で、我々は上記の理由がモデルの中でゲージ場とCMBの温度揺らぎの種となるスカラー場が直接結合していることにあると突き止めた。そして、ゲージ場と結合している場が別のスカラー場であれば、CMBの温度揺らぎの観測制限を満たしながら大きな統計的非等方性を持った原始重力波が生成され得ることを発見した。また並行して、これまでの非等方インフレーションモデルから作られる統計的非等方性が、ゲージ場の確率論的効果によって以前に見積もられていた値よりも大きくなり、CMB観測を満たすことが難しいことも発見した。因みに、我々が提唱したモデルはこの確率論的効果が無視できる。
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