本研究では、近年目覚ましい太陽エネルギー変換効率の向上を見せる「ペロブスカイト太陽電池」を研究対象とし、太陽光によって生成される光励起キャリアのダイナミクスについて調査した。先行研究から光励起キャリアは自由電子及び自由正孔であることが明らかにされている。だが、静的な理論計算から算出される両者の有効質量には明らかな違いがあるのに対し、実験結果から示唆される拡散距離は同程度という矛盾が生じていた。この問題について、非断熱第一原理分子動力学法に基づく計算機シミュレーションを行い、実際にこれらのキャリアの位置と速度の時間発展を追跡することで、拡散機構の解明に取り組んだ。ペロブスカイト太陽電池は主として、「CH3NH3PbI3」のペロブスカイト構造を太陽光吸収部位として用いており、ここで光励起キャリアが生じる。本研究でもこの構造を用いた。 シミュレーションの結果、自由電子・自由正孔の生成と拡散が同程度になることが確認された。そして、拡散機構に対する説明を次のように与えた。まず、光励起キャリアの波動関数をその重心が行うホッピング運動と、波動関数が広がる原子数という2つの観点に分ける。重心運動に注目すると、電子の重心はPb原子が作る格子に沿ってホッピングが起こり、正孔はI原子の格子に沿ってホッピングすることが分かった。ここで重要なのは、Pb原子が作る格子の間隔の方が大きいということである。一方、波動関数の広がりの点では正孔の方が多くのI原子に跨っており、励起電子の波動関数が跨るPb原子数よりも大きい。跨る原子数が多いと、ホッピング率もそれだけ大きくなる。これらの知見から、光励起キャリアの重心の移動距離と波動関数の広がりのトレードオフによって拡散距離が同程度と成り得ることが導かれる。 本研究結果は、動的にかつ原子レベルから光励起キャリア拡散機構を理解した、という点で意義があると考えられる。
|