研究課題/領域番号 |
15J01358
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 賢人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | エンタングルメント・エントロピー / ゲージ・重力対応 |
研究実績の概要 |
量子もつれの指標の1つであるエンタングルメントエントロピー(EE)の研究において、動的な性質や励起状態に対する性質は近年活発に議論されているテーマであり、場の理論を含む量子系を量子情報的な視点から理解する試みにおいて重要な役割を果たしている。そして、そのホログラフィックな模型における議論はゲージ・重力対応の理解に大きく寄与している。また最近では、量子情報理論で開発された量子もつれに関する様々な量や概念が場の理論やホログラフィックな模型へと適用されるようになっている。 EEの動的な性質や励起状態に対する性質を更に理解するため、局所演算子による励起状態に対するEEとその時間発展を議論した。特に、重力双対をもつような大きな自由度をもつ2次元共形場理論(CFT)を考え、重い局所演算子で有限温度の状態を励起した状態に対するEEと2つの部分系間の量子もつれを測る相互情報量(MI)の時間発展を議論した。また、ホログラフィックな模型においても同じ結果をあらわに示した。局所的な励起により系の量子もつれが十分乱されるまで時間(スクランブル時間)が系の自由度の対数に比例する「速いスクランブル」を場の理論で初めてMIを用いて示した。 また、EEだけではなく他の量子もつれに関する方法や量を場の理論で議論し、その重力双対についての提案を行った。まず、格子上の量子状態の効率的な構成法であるMERAと呼ばれる方法の連続版(cMERA)を動機とし、2次元CFT側(場の理論側)の境界状態と生成子を用いて、対応する時空中の局所演算子を構成する方法を提案し、具体的に様々な点でその構成法が正しいことを示した。そして、量子情報計量という状態間の距離を測る量を場の理論で議論し、その重力双対がEEの場合とは余次元の異なる曲面の体積であることを提案した。いずれの仕事もゲージ・重力対応の理解に新たな進展をもたらすと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究分野の発展は非常に速く、その潮流に乗り、今年度研究計画の作成当初に計画していたよりも非常に発展的な内容を研究することとなったが、励起状態に対するEEの動的な性質について興味深い研究成果を得ることができた。また、量子情報的な視点に基づき、場の理論側の情報のみから重力双対側の時空中の局所演算子を構成する新たな方法を提案し、量子情報計量という量を場の理論で議論し、その重力双対を新たに提案して、ゲージ・重力対応の更なる理解に寄与することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も場の理論・重力理論の量子的性質の解明に向けて、励起状態に対するEEやその他の量子もつれに関する様々な量や概念を動的な性質を含めて議論し、その重力双対に関する理解も深めていきたい。重力双対をもつようなCFTにおける計算から重力双対における非自明な量子補正を読み取ること、場の理論における多体の量子もつれに関する指標とその重力双対、そして、量子情報理論において非常に重要な概念である量子系の「操作」とそれにまつわる量子過程の場の理論とその重力双対の両面からの理解など様々な興味深い研究課題がある。このような研究課題を海外の第一線の研究者とも議論して探求していきたい。
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