研究課題/領域番号 |
15J01365
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
永田 大輔 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | オタク / ビデオ / アニメ雑誌 / 批評 |
研究実績の概要 |
報告者は、アニメファンがビデオが普及するという経験の下でどのようにその集団性を形成させてきたのかと、そのことがどのように再記述されてきたのかに関して主に雑誌資料をメインに据えて議論している。そのため申請者の研究は(1)アニメファンをとりまく条件(2)そのなかで形成する集団性(3)そのことが再記述される側面の三つの側面に分かれて議論している。 今年度は、研究報告6件、学会報告1件、司会1、論文掲載2件(投稿数は5で一部査読中である)、アウトリーチ活動の記事1件、書評依頼1件の業績を積むことができた。主要なものに限り、具体的に得られた成果に関して以下で詳述したい。 (1)に関して二つの側面から議論した。それは本論の関心となるビデオというメディアがそもそもどのような形で家庭普及以前には存在したのかに関して市場誌『ビデオ・ジャーナル』を素材として議論した(『マス・コミュニケーション研究』88号に掲載)。ビデオに関する研究蓄積はこれまで少なく、その点でも重要な意義のある論文である。また共著として一橋大学の松永氏とアニメ制作者に関してインタビューと雑誌の協同分析の報告をいくつか行った。(2)に関してはOVAと呼ばれる80年代に誕生する媒体に着目し、テレビ放映ではない別の放映形態が可能になることによって、アニメファンの集まりの構造がどのように形成されたのかを見ることができた(日本社会学会にて報告、現在査読中である)。(3)80年代に報告者が対象としていたアニメファンは80年代の後半以降に「オタク」として社会問題化されることになるが、その問題化のされ方にはどのような言説的な特徴があったのかを代表的な批評家である大塚英志、竹熊健太郎、本田透らの言説に定位しながら議論した(『ソシオロゴス』39号掲載)。 また、その三つの分析視角をとる意義に関して、経験的な側面・理論的な側面からそれぞれ論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は多くの研究会に参加し、最新の隣接分野の研究をキャッチアップするとともに、ネットワークを形成することもできた。積極的に論文の投稿・報告を行うこともできた。ただ、年度内に掲載に至らなかった論文もあるため、博士論文の執筆に向けてそちらも平行して完成させていきたいと考えている。 また研究課題を達成するための一部として共著論文の執筆を行うとともに共著者である松永氏と連名でアニメーション研究に対する新たな研究会を立ち上げることができた。三回開催したが、いずれもアニメ研究を考えるうえでそれぞれ重要な論点を報告者・討論者を通じて共有できた。 内容としてはアニメ雑誌の収集として『月間OUT』『テレビランド』『FILM1/24』を新たに閲読・収集することができた。『OUT』はアニメ雑誌の最古参の雑誌の一つであり、ファン文化を考えるうえで重要な雑誌とされてきた。『テレビランド』は最大手かつ最古参のアニメ雑誌『アニメージュ』の前進となるテレビ雑誌であり、『FILM1/24』は70年代前半からある専門家向けの雑誌である。これらを検討することでこれまで検討してきたアニメ雑誌をふまえたアニメ雑誌全体の見取り図を検討することができた。 理論的な検討を主に行うとともに、方法論的な洗練を目指した。そのため、アニメ文化に直接関係ある文献だけでなく文化社会学の古典と呼ばれる文献をいくつか精読した。その結果として理論的に自分のやっているプロジェクトを全体として位置づける作業をするうえで一定の見通しをたてることができたことが本年度の大きな進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、文献資料の収集ならびに文献の分析を行うとともにデータの分析方法に関してさまざまな方と議論をする機会を得ることができた。2016年度は2015年度に収集した資料を精読するとともに博士論文執筆に向けた理論的な検討を行っていきたいと考えている。そのために2016年度は外国語文献も含めた文化社会学とメディア研究の古典的な研究をそれぞれ検討したうえで、自分の研究の立ち位置を模索していきたいと考えている。 またこれまで収集してきたアニメ雑誌の基礎資料的な分析を行い、そもそもアニメ雑誌というメディアがどのようなメディアであったのかに関して考察する。また、ビデオに関しても今年度もたらされた知見をもとに個別的な領域を掘っていき分析を行う予定である。 具体的な研究の計画としては、4-6月期までに前年度掲載に至らなかった論文の再投稿の準備を進めるとともに、それが博士論文の中でどこの位置に位地づくのかに関して再検討を行うことにしたい。7-9月に博士論文の本格的な準備を行い、10月に提出する予定である。11月以降は審査と平行して可能であれば博士論文を単行本化する作業をすすめたい。
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