今年度は前年度の研究を基礎としつつ、理論的な枠組みの検討において進捗があった。2016年度は3件の学会報告と2本の論文(うち一本は採録見込)が掲載された。 マスコミュニケーション学会の春季報告で本研究計画の理論的な枠組みを検討した。申請者の問題関心は(1)アニメファンがビデオをどのように消費したか(2)オタクというカテゴリーがどのように社会問題化したかという2点であった。社会問題化のきっかけにファンのビデオ使用が結び付けられたという経緯はあるが、この2点は断絶があった。まずその両者の関係を問うことを目的とした。 オタクを社会学的に捉えることの困難が(a)批評との差異化を行おうとしてきたこと(b)社会学者自体がカテゴリーの構成に参与したことの二点とし、そのカテゴリーに関する批評史を振り返った。オタクというカテゴリーは批評と不可分な形で形成され、当事者主義と有徴化された言及の二極化が起こり、第三の道として社会学的な知が参入したことを明らかにした。そのことを踏まえたうえで社会学を含めた批評を外部化しないまま論じる方法論が必要だとした。その方法として(1)批評がどのようなふるまいを参照していたのかを再構成する(ふるまいの水準)(2)その再構成をもとにその批評的な観察の意味を見直すこと(観察の水準)の両者をもとにこれまでの研究を再構成した。 さらにふるまいの水準としてアニメファンのビデオ消費の分析が進展した。2017年2月のソシオロジの論文は国内で初のOVAというアニメのパッケージソフトを主題とした論文である。制約の多かったテレビ作品に対して、自由な作品が作られる可能性を持つ場として着目された。だが、制作人口が限られたためにその作品が作られ続けることはアニメ産業全体の衰退に繋がるという危惧があった。このことから消費者の側でも一般層をファンが意識せざるを得なくなることを明らかにした。
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