今年度は、政府政策が所得格差、経済成長、および社会厚生に与える影響について、政治経済学の観点から分析することを研究テーマとし、以下の3つの研究を進めた。 第1の研究として、所得格差と教育選択の関係について分析を行った。分析の結果、経済初期における所得格差の程度に応じて、長期的には2つの経済状態が存在することを明らかにした。1つは、所得格差が小さく、公的教育への参加率が高い経済であり、もう1つは、所得格差が大きく、公的教育への参加率が低い経済である。 第2の研究として、個人の持つ能力と所得水準にミスマッチが存在する状況における、公的教育が世代間移動に与える影響を分析した。 分析の結果、所得階層間の政治的影響力によって、世代間移動のパターンが変わることが明らかにされた。具体的には、低所得階層の政治的影響力が強い場合、世代間移動は単調に収束する。一方、高所得階層の政治的影響力が強い場合、世代間移動は循環的に収束する。 第3の研究として、公的教育支出のファイナンス方法に注目し、公的教育、経済成長、および社会厚生の関係を分析した。分析の結果、税のみを用いた運用方法の方が、税と公債を用いた方法より、長期的な経済成長および社会厚生の観点から望ましいことが示された。さらに、ファイナンス方法が投票により決まる場合、有権者は、現在における公的教育の費用負担を将来世代に先送りできるため、税と公債を用いた運用方法を選ぶことが明らかになった。
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