前年度から継続して、歪曲波インパルス近似(Distorted Wave Impulse Approximation: DWIA) に基づいて核子およびアルファ粒子ノックアウト反応の記述を行った。 本年度の研究の重要な成果として、DWIAがノックアウト反応を記述する理論として十分な信頼性を持っていることを示した研究が挙げられる。この研究では、近年開発された新しい反応理論である transfer-to-the-continuum モデル、および3体反応を厳密に記述するFaddeef/Alt-Grass-Sandas 理論によるノックアウト反応計算との比較を行った。結果の分析により、DWIAはこれらのより精密な反応理論と十分に一致することが確認され、DWIAはノックアウト反応の記述にたいして非常に簡便かつ精度の良い反応理論であるこが示された。DWIAはノックアウト反応実験の解析に広く用いられており、この結果はこれまでのノックアウト反応分析を正当化する非常に重要なものである。この結果はすでに学術誌に掲載済みである。 また、もうひとつの重要な研究成果として、10Beからのアルファ粒子ノックアウト反応による10Beのアルファクラスター状態の探索研究が挙げられる。!0Beは典型的なアルファクラスター構造をもつ原子核として知られるが、本研究ではアルファクラスター状態を精度よく記述する構造理論としてTHSR法を用い、10Beのクラスター構造を記述した。この情報をアルファノックアウト反応計算に用いることにより、クラスター構造がどのようにノックアウト反応断面積に反映されるかを調査した。結果として、ノックアウト反応断面積はクラスター構造の発達度に敏感であり、ノックアウト反応断面積の大きさからクラスター構造の発達度を実験的に探索できる可能性を示した。この研究成果は論文誌に掲載決定済である。
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