研究課題/領域番号 |
15J01403
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林ベター ダニエル 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 表記規範 / 画一化 / 仮名遣い / 歴史的仮名遣い |
研究実績の概要 |
本年度は、表記の画一化の一側面として、明治初期の教科書や辞書という規範性の高い資料を中心に、明治時代における仮名遣い規範について調査した。 近世には、一つの語に複数の形式を使用する仮名遣いの実態があったとされている。一方、明治時代には歴史的仮名遣いが公的な表記規範として採用されたことが通説となっている。しかし、この「歴史的仮名遣い」がいつ、どのように社会的な表記規範と認められるようになったかについての詳細は明らかになっていない。また、先行研究には、明治時代の小説や新聞に見られる仮名遣いの誤りの例が取り上げられているが、「正しい仮名遣い」即ち明治時代の仮名遣い規範の明確な定義が行われていない、という問題がある。本年度は明治初期の辞書と教科書という規範的な資料を調査し、この資料に掲載されている語の表記形式を明治初期の「正しい仮名遣い」を示すものとしてとみなした。また、この明治初期の「正しい仮名遣い」近世の歴史的仮名遣い系の仮名遣い書および現代の『日本国語大辞典』に示されている「歴史的仮名遣い」と比較した。 調査の結果、明治初期の資料に示されている表記形式は、『日本国語大辞典』および近世の仮名遣い書に示されている表記形式と概ね一致していることが明らかになり、明治初期の段階で歴史的仮名遣いに基づく表記規範の素地ができていたと判断できる。但し一部には明治初期の資料が『日本国語大辞典』と異なる表記形式を示す場合もあった。このような場合のうち、明治初期の資料が近世の仮名遣い書のあり方を引き継いでいること(明治初期の資料と近世の仮名遣い書が一致して『日本国語大辞典』と異なる表記形式を示している場合、または近世の仮名遣い書のうち各資料間の異同があった語について明治初期の資料の間にも同様の異同が認められる場合)が多いことがわかった。この結果について日本近代語研究会の発表大会にて口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
明治初期の仮名遣い規範は現代の『日本国語大辞典』に見える「歴史的仮名遣い」と異なる点があることがわかった。このことから、明治時代の文書における仮名遣いが表記規範に一致しているかどうかを調査する際、『日本国語大辞典』に示されている歴史的仮名遣いを比較対象とすることが不適切であることが明らかになった。本年度、明治時代の時点での仮名遣い規範を確かめるために調査を行い、その結果の口頭発表を行った。今後、明治時代の小説や新聞、雑誌なとの著作品における仮名遣いの実態を調査するにあたって、小説などに見られる表記形式が規範に従っているかどうか確認するための資料を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、文芸作品や新聞、雑誌、翻訳書などの出版物及び手書きの文書など様々な資料を対象として、明治時代における仮名遣いの実態を明らかにしていく。本年度に作成した対照表を使用し、調査資料に見られる仮名表記形式が規範的な資料に掲載される表記形式と一致しているかどうか確認し、各資料の表記が仮名遣い規範と一致している割合がその資料のジャンルなどとの関連性の有無を調べる。 また、歴史的仮名遣いが社会的な表記規範として採用されるようになった背景について確かめていくつもりである。本年度の調査で、洋学者が著した教科書に見える仮名遣いが近世の仮名遣い書や明治初期の辞書と概ね一致していることが認められ、このことから明治初期の段階で洋学者にも歴史的仮名遣いに基づく表記規範意識があったと判断できる。近世以前の歴史的仮名遣い研究は主に国学者によって行われているが、その表記規範意識がどのように洋学者などの知識層にどのように伝わっていったのかを、洋学者の伝記などの資料を通して調べる。
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