研究課題/領域番号 |
15J01414
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
寺尾 勘太 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | learning / cricket / prediction error |
研究実績の概要 |
予誤差理論は、動物の学習を説明する有力な仮説である。この理論によれば、動物は予測外 の事象が起こると自分の予測と現実の差に依存して学習する。本研究では、この理論が昆虫の様々な学習に適用可能であることを示し、その神経メカニズムを追及した。 研究代表者はこれまでに、コオロギではオクトパミン(OA)ニューロンの伝達する報酬予測誤差が学習を制御することを行動薬理学的に示唆した。先行研究においてドーパミン(DA)ニューロンが罰学習に寄与することも知られている。これらを踏まえ研究代表者は『昆虫ではOAニューロンが予測誤差を 伝達して報酬学習を支配し、DAニューロンが罰学習を支配する』との仮説を提唱し、その検証を行っている。 本年度の研究では、(1)行動実験によりDAニューロンが罰予測誤差を伝達する可能性を検証した。(2)OAニューロンから神経活動を記録するために必要な、OAニューロンの免疫染色による同定を行った。 今年度は特に実験1について進捗が大きい。昨年のブロッキング実験と、本年度の行動薬理学実験を組み合わせることにより、コオロギの学習ではDAニューロンが罰予期誤差によって罰学習を支配することが示唆された。本成果は現在査読付き国際誌に投稿するための準備を進めている。 実験2についても実験を遂行したものの、技術的な問題が発生したため進捗が遅れている。この影響を受けて、予定されていたOAないしDAニューロンからの活動記録の進捗が遅れている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、2年目に(実験1-b: 罰学習におけるDAニューロンの機能解析)と(実験2-b: 脳内OAニューロンの同定)および(実験3-a: 学習時におけるOAニューロンおよびDAニューロンの電気生理学的解析)が予定されていた。それぞれの経過について記載する。 (実験1-b: 罰学習におけるDAニューロンの機能解析)極めて順調に進んでいる。予測誤差モデルがフタホシコオロギの罰学習に適用可能か行動薬理学的な検証を行うため、ドーパミン受容体阻害剤を用いた実験を行った。コオロギにドーパミン受容体阻害剤であるflupentixolの投与条件下で匂いと罰を提示する訓練を行った後、翌日薬の効果が失われてから再度、匂いと罰を提示する訓練を行った。結果、匂いに対し忌避が起こらないという、匂い学習のオートブロッキング現象を確認した。報酬学習と同様に、匂いと罰の連合学習に対してオートブロッキング現象が起こることを確認することで、昆虫の罰学習が予測誤差に基づくことが確認できた。現在、1年目の研究内容と合わせて査読付き国際誌への投稿論文を準備中である。 (実験2-b: 脳内OAニューロンの同定)進捗が予定に比べ遅れている。昨年報告した通り、OAの前駆体であるチラミン合成酵素TDC2の抗体を用いて染色を行っている。染色像は、先行研究のOA染色像と分布がほぼ一致しているため標的細胞の染色には成功しているものの、生理学的解析に必要な問題点を解決できていない。 (実験3-a: 学習時におけるOAニューロンおよびDAニューロンの電気生理学的解析)順調ではない。実験2-bの遅れの影響を受けて、生理学的解析は行っていない。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に述べたとおり、次の実験を継続する予定である。 (実験2-b: 脳内OAニューロンの同定)チラミン合成酵素抗体を用いて染色を行う。染色像を光学顕微鏡下で観察し、生理記録に必要な情報を収集する。 (実験3-a: 学習時におけるOAニューロンおよびDAニューロンの電気生理学的解析) 学習中の昆虫から神経活動を記録するため、脳内OAニューロン・DAニューロンの細胞内記録・染色および神経活動の制御実験を並行的に行う。
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