研究課題/領域番号 |
15J01426
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
樋口 諒 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 炭素繊維強化複合材料 / 計算機援用仮想試験 / 非線形有限要素法 / マルチスケール解析 / 拡張有限要素法 / 初期損傷予測解析 / 円孔板引張解析 / 面外負荷損傷解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、航空機における型式証明のコスト低減を目的とした、複合材料航空機部材の計算機援用仮想試験へ向け、高精度かつ汎用性の高い数値解析手法開発に取り組んでいる。特に、複合材料航空機構造の設計上の不確定要素となる、面外負荷時の内部損傷、微視構造に依存する初期損傷発生といった問題に着目し、下記2つのテーマに取り組んでいる。 (i)巨視的解析と微視的解析を組み合わせたスケール横断型の解析手法の構築 (ii)巨視的解析への拡張有限要素法(XFEM)の導入 これらを組み合わせ、スケール横断型かつメッシュフリーにき裂の予測が可能な新しい数値解析手法が実現できれば、高精度かつ汎用性の高い数値解析手法を確立することができる。 平成27年度においては、スケール横断型解析手法の枠組みの構築が完了したため、平成28年度は巨視的解析に適用するXFEMプログラムの開発および検証に重点的に取り組んだ。具体的には、面内負荷試験、面外負荷試験を対象とした検証解析を実施し、XFEMプログラムの解析精度検証および従来のFEMに対する優位性を検証した。 まずは面内負荷状態での解析精度検証として、炭素繊維強化複合材料(CFRP)の実用強度評価によく用いられる円孔材引張・圧縮試験を対象としたXFEM解析を実施した。その結果、従来のFEM解析よりも強度の予測精度向上が認められ、XFEMの有用性が示された。次に、面外負荷状態での解析精度検証として、面外押し込み試験を対象としたXFEM解析を実施した。本解析では、昨年度実施した微視解析により得られた知見に基づいて改良した破壊基準を導入している。解析結果は実験結果と非常によく一致しており、微視解析での知見を導入することの重要性が示された。該当研究の研究成果は、国際誌2編、国際学会3件、国内学会1件にて発表済みであり、来年度も国内学会1件、国際学会3件にて発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画では、2年目(平成28年度)は「XFEMプログラムの面外負荷解析への適用、ならびに微視的解析により作成した破壊基準の巨視的解析への適用を行う」としていたが、当初の計画以上に進展したと判断する。判断理由について以下に述べる。 まず、XFEMプログラムの面外負荷解析への適用については予定通り完了済みである。面外負荷解析へXFEMを適用した例は過去に報告されておらず、世界初の試みである。それに加え、1年目に実施した微視解析で得られた知見に基づき、樹脂強度の静水圧依存特性を破壊基準に導入することで、損傷分布や荷重-変位曲線、損傷発生荷重が実験とよく一致することを確認している。これにより、微視解析に基づいた破壊基準の必要性が示され、本研究の必要性が証明される結果となった。 また、当初の計画には含まれていなかったが、面外負荷状態以外の負荷状態での解析精度を検証するため、面内引張・圧縮負荷状態への適用も試みた。提案手法で予測された強度や損傷分布は両解析で実験と良い一致を見ている。パラメータフィッティングなどを要することなく、1種類の解析プログラムにより様々な負荷状態で高精度な損傷・強度評価が可能であるという本成果は、最終目標としている「計算機援用仮想試験」の実現へ向け大きな進歩であるといえる。 このような理由から、研究全体を通じ、申請時の計画以上に研究が進捗している状況と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の計画では、3年目は「様々な積層構成の積層板に対する面外負荷解析を行い、面外負荷損傷に対するCFRP積層板の積層構成の最適化を行う」ことを予定していた。当初の予定通り、2年目までに解析手法は概ね確立しているため、今後は様々な積層構成の積層板を対象として面外負荷解析を実施し、積層構成が面外負荷損傷へ及ぼす影響について数値解析的に調査を実施する。 また、2年目までに面外負荷状態だけでなく面内負荷状態へも適用が完了しているため、追加検討として、各種材料物性が面内・面外負荷下での強度・損傷特性へ及ぼす影響を数値解析的に調査したいと考えている。具体的には、重要な設計指標である(i)円孔材引張強度、(ii)円孔材圧縮強度、(iii)面外負荷損傷特性を対象とし、材料物性に関する感度解析を実施する。感度解析により各種強度への材料物性の影響度合いを明らかにすることで、今後の各種強度向上へ向けた材料開発に貢献できるのではないかと考えている。
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