研究課題/領域番号 |
15J01427
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 渉太 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 細胞膜輸送 / 水酸基ラジカル / 過酸化水素 / 薬剤導入 / ライブイメージング / カルシウムイオンチャネル |
研究実績の概要 |
本研究では,帯電液滴重畳反応性プラズマジェットによる高分子薬剤の高効率細胞内導入実現を目的として,大気圧プラズマ照射が誘発する薬剤(遺伝子,タンパク質,抗がん剤)の細胞膜輸送機構を明らかにする実験を行った結果,以下のことを明らかにした. 1.大気圧プラズマ中及び照射後の液中に生成される化学的活性種の測定: 大気圧プラズマを生理食塩水に照射した際,液中には数10を超える化学的活性種が生成されることが数値計算で予測されている.さらに,活性種の検出プローブはほとんどが,非選択的であり,支配的に生成されている活性種を同定できないという問題があった.そこで,水酸基ラジカル・過酸化亜硝酸・次亜塩素酸のみを検出でき,かつそれぞれの感度が異なる二種類の化学プローブAPF及びHPFを組み合わせて用いることにより,支配的に生成される活性種がOHラジカルであることを明らかにした.また,プラズマ照射後,過酸化水素濃度が分オーダーで上昇しており,過酸化水素の前駆体Aが照射後10分以内に徐々に放出されるという特異的な化学反応が起こっていることを示す結果が得られた. 2.大気圧プラズマ照射生理食塩水添加後の細胞内カルシウム濃度及び薬剤模擬分子輸送量のライブイメージング測定: プラズマ照射生理食塩水の添加により細胞内カルシウム濃度及び薬剤分子輸送量が有意に上昇するが,照射から添加までの時間を分オーダーで長くするとこの効果は減弱することが分かった.さらに,TRPチャネル阻害剤の添加によりそれら細胞応答が完全に抑制されることが明らかとなった.以上より,大気圧プラズマ照射に伴い生理食塩水中に生成されるOHラジカルが引き金となって,10分以内に徐々に放出される過酸化水素の前駆体Aが,TRPチャネルを介在したカルシウム応答と薬剤分子輸送を誘起した可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2年目に計画していた生理食塩水中活性種濃度,細胞内カルシウムイオン濃度,薬剤分子輸送の3つをリアルタイムに測定可能な実験系を確立した.また,過酸化水素の前駆体Aの放出量が数分オーダーで失活していく現象と近い時間オーダーで,カルシウム応答・薬剤模擬分子輸送も減弱していく様子を観測し,細胞膜輸送を促進する因子に関して重要な手がかりを得た.さらに,TRPチャネルがそれらの細胞応答全てを介在していることを,阻害剤添加実験を通して明らかにした.これらの成果は,高分子薬剤の細胞内導入を高効率化するプラズマ生成装置開発に貢献する重要な成果であるだけでなく,生物学的観点からも価値ある知見を得たといえる.
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今後の研究の推進方策 |
薬剤模擬分子輸送を促進する活性種は,プラズマ照射溶液中にて数分オーダーで放出される過酸化水素の前駆体Aであることが示唆されたため,この前駆体Aの同定を試みる.また,プラズマ照射溶液によって誘起された細胞内カルシウム濃度上昇及び薬剤模擬分子輸送について,カルシウムイオンは細胞膜のTRPチャネルを介した流入による濃度上昇であることを明らかにしたが,薬剤模擬分子の膜輸送経路は未だ不明であり,この経路同定を試みる. さらに,3年目に予定していた安全性試験について,発生毒性と遺伝毒性を調べる.
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