研究実績の概要 |
三年計画の二年目において,カイラリティ制御単層カーボンナノチューブ(SWNTs)合成実現に向け,SWNTsのカイラリティ分布における触媒前処理の効果とSWNTsのカイラリティ選択的メカニズム解明に関する研究を行った. 1.カイラリティ分布に与える触媒前処理効果.前年度はSWNTsのカイラリティ制御に向けて,新たな触媒前処理方法を開発し,(6,4)SWNTsの優先成長に成功した.今年度は触媒に対する前処理条件依存性をより詳しく調べた.その結果,前処理時間,温度等のパラメーターが(6,4)SWNTsの選択的合成に寄与することを明らかにした.このように,より多くのパラメーターの最適化を行った結果,更なる(6,4)SWNTsの純度向上に成功した. 2.前処理によるカイラリティ選択制御のメカニズム解明.触媒前処理による更なる(6,4)SWNTs純度の向上及び他のカイラリティの選択的成長等を実現するためには,触媒前処理によるSWNTsのカイラリティ制御のメカニズムを解明することが重要である.これに向けて,まず,触媒前処理後の触媒の形状と粒径等をTEMとAFM測定を用いて調べたところ,SWNTsの合成に寄与する小粒径の触媒には明らかな粒径変化は観測されなかった.一方,EDX,XPS,XAFSとEXAFS等の分析手段を用いて前処理前後の触媒の表面状態を調べた結果,触媒成分中の酸化物が還元されることを明らかにした.以上の触媒解析結果から,触媒表面の化学状態の変化とカイラリティ選択性とが密接に関係する可能性が示唆された. 3.前処理とカイラリティ選択性に関する理論解析.触媒の化学状態とカイラリティ選択性の関連性の理論解析を行った.触媒の前処理による触媒の還元はSWNTsのキャップ形成と成長段階のエネルギーに大きな影響を与え,その結果カイラリティ選択性の違いに現れることを明らかにした.
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