平成27年度は,世界最高の耐用温度(137MPaで1000h耐えられる温度)を有するNi基単結晶超合金TMS-238中のRuをIr置換すると,有害相の析出が抑制されて900°C-392MPa(低温-高応力)でのクリープ強度が向上する一方,γ/γ′界面転位網間隔が拡大し1150°C-137MPa(高温-低応力)でのクリープ強度は低下することを解明した. 平成28年度では,界面転位網間隔の拡大原因と予測されるγ相とγ′相の格子定数ミスフィットを高温X線回折により実測した.また,γ/γ′格子定数ミスフィットを決定する要素である合金元素のγ/γ′相分配を調べた.その結果,Ir置換するとγ/γ′格子定数ミスフィットが0に近づく(緩和する)ことを実証できた.また,Ruはγ相により多く分配する一方,Irはγ相とγ′相の両相にほぼ均等に分配することが分かった.これらの結果をもとに,Ir置換によるγ/γ′格子定数ミスフィットの緩和メカニズムを解明した.RuとIrのγ/γ′相分配の差異により,Ir置換するとIrがγ相とγ′相に等分配する分だけγ′相の固溶原子は増加し,γ相の固溶原子は減少する.ここで,Irの原子半径がRuとほぼ同じかつNiより大きいという純金属での大小関係が多元系合金中でも成立すると仮定すると,固溶原子が増加した分だけγ′相の格子間隔は押し広げられ,γ′相の格子定数は拡大する.その一方,固溶原子が減少するγ相の格子定数は縮小する.上記の過程を経て,本年度に実証したIr置換によるγ/γ′格子定数ミスフィットの緩和が引き起こされると考えられる. 以上より,Irの特徴に起因するミクロ組織とクリープ強度の変化とその原因を解明した.本成果は,Ir添加が,Ni基単結晶超合金の更なるクリープ強度向上に有効であることを示唆するものである.
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