研究実績の概要 |
1、脂肪族カルボン酸の多重重水素標識反応の開発:10% Pt/Cを触媒としてi-PrOHあるいはi-PrOD-d8と重水の混合溶媒中、120 oCで加熱攪拌すると、バルプロ酸など医薬品を含む様々な脂肪族カルボン酸の重水素標識反応が進行することをH27年度までの研究成果として見出している。H28年度は、論文投稿に向けて基質適用性を更に拡充した。具体的にはパルミチン酸やステアリン酸といった生体内必須脂肪酸だけでなく、同一分子内にケトンを有する脂肪族カルボン酸も、ケトンが還元されることなく重水素標識反応が進行することが判明し、重水素標識ビルディングブロック合成法としても有用な実用性ある方法論として確立し、学術論文として報告した(Adv. Synth. Catal. 2016, 358, 3277-3282)。 2、塩基性陰イオン交換樹脂WA30を使用した重水素標識反応の開発:H28年度の申請研究を遂行する過程で、WA30存在下、末端アルキンの重水素標識反応がメタルフリーで進行すること見出し、基質適用性を十分に検討した上で論文投稿した(RSC Adv. 2015, 5, 92954-92957)。特に、固体末端アルキンの重水素標識化反応では、基質の溶解補助剤としてごく少量の有機溶媒を添加することで反応効率が劇的に向上することも見出し、エチニルエストラジオールをはじめとする様々な固体末端アルキンの重水素標識化法として確立した。なお使用したWA30は回収・洗浄して繰り返し利用することができる。また、WA30の使用によりニトロメタンも効率良く重水素化されることを見出しており、系中にベンズアルデヒドを添加したところ、ニトロアルドール反応が効率良く進行した。合成した重水素標識β-ニトロアルコールは官能基変換が容易な重水素標識ビルディングブロックとして有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪族カルボン酸の重水素標識法の開発をH27からH28年度にかけて遂行し、更なる基質適用性を拡充することで論文投稿を達成することで研究を完了した(Adv. Synth. Catal. 2016, 358, 3277-3282)。また、申請研究を推進する一方で、芳香族シラン化合物と炭素担持型白金族触媒を室温下、水中で反応すると、二分子のシランがカップリングしてジシロキサンが得られることが判明した。さらに、溶媒を水からi-PrOH/D2Oに変更すると、芳香族シランのカップリングと同時に芳香環のメタ位並びにパラ位選択的に重水素原子が導入されることも同時に見出した。そこで、この反応を新規テーマとして立ち上げ、カルボン酸の重水素化反応開発と並行して遂行することで学術論文として投稿した(J. Org. Chem., 2016, 81, 4190-4195)。 上記申請研究に並行して、塩基性陰イオン交換樹脂WA30を使用した、重水中メタルフリーで進行する末端アルキンの重水素標識反応の確立および論文投稿を達成した(RSC Adv. 2015, 5, 92954-92957)。さらに、WA30を利用することで、重水中ニトロメタンが短時間で効率良く重水素標識されることも見出した。そこで、合成した重水素標識ニトロメタンを用いた新規反応開発ならびに重水素標識ビルディングブロック合成法の開発を推進しており、既に重水素標識ニトロメタンを求核剤とした、ベンズアルデヒドとのニトロアルドール反応へと適用可能であることを見出している。 以上、申請者は、申請研究を遂行するのみならず、研究遂行課程で見出された新規反応開発を完遂することで成果を挙げてきた。また、得られた成果や知見を基に、申請研究の応用的な展開にも成功し、新規研究テーマとして確立することで更なる成果を挙げている。
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