本研究は、筋タンパク合成/分解出納バランスが微小血管の拡張調節による影響を受けるか否かを明らかにすることを目的としている.最終年度である平成29年度も動物を対象として検討を行った. ラット骨格筋を対象にインスリン刺激による筋血流量の変化を求めた.インスリン刺激による血流量の増加を安定的に捉えるため高インスリン正常グルコースクランプを2時間施行し、その時の血流量を測定した.筋血流の測定には、動脈血流測定のゴールデンスタンダードとされている超音波トランジットタイム血流計(Transonic T410)を用いた.上記のとおり厳密な血流量測定を行ったにもかかわらず、当初の予測とは異なり生理学的濃度を用いたインスリンクランプ時の血流量に有意な変化はみられなかった.一方、血糖や血中インスリン濃度は生理的範囲内で推移していた.このことは、ラットにおける生理的濃度のインスリンは血流量を変化させない可能性があることを示し、複数の先行研究の結果から提唱されている「摂食→血流量増加→筋タンパク質合成量の増加」という図式が成り立たないことが考えられる.この現象はラットを対象としたから起きたのか、また、ヒトも同様なのかについては不明であるものの、本研究の結果はサルコペニアの筋血流量の影響に着目した今後の研究にも影響を与えることだろう. 今後の研究展開として、ヒトを対象として骨格筋と筋血流の関係性について詳細に検討する必要がある.
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