研究課題/領域番号 |
15J01600
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
若杉 勇太 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 消散型波動方程式 / 時間大域的適切性 / 漸近挙動 / 拡散現象 / 高次展開 / 自己相似変換 / エネルギー法 |
研究実績の概要 |
変数係数の摩擦項をもつ非線形消散型波動方程式に対して,初期値問題の時間大域的適切性および解の長時間挙動について考察を行った.まず時間大域的適切性について,摩擦項が効果的かつ非線形項が優臨界の場合に,小さな初期値に対する時間大域解の一意存在を示した.さらに長時間挙動について,解が時間無限大において適当にスケーリングされた熱核に漸近するという結果を得た.これは消散型波動方程式の拡散現象を表している.また,先行研究においては初期値にコンパクト台または空間遠方で指数関数的に減衰するという仮定が必要であったが,これも空間遠方で多項式オーダーの減衰に弱めることができた.証明は,Gallay-Raugel(1998年)により空間1次元の場合の研究に用いられた熱方程式の自己相似変換とエネルギー法による手法を,分数階積分作用素を用い高次元に拡張することにより行った. また,高次の近似についても部分的な結果が得られた.時間変数に依存する摩擦項をもつ空間1次元線形消散型波動方程式の初期値問題に対して,摩擦項が効果的かつ,さらに係数のオーダーについての付加条件のもとで,熱核の空間微分を用いた2次までの展開を得ることができた.この結果と証明方法から,摩擦項の係数のオーダーと,熱核による高次展開可能性の対応が示唆される.この関係を明らかにすることは今後の課題である. さらに,空間変数に依存する摩擦項をもつ線形消散型波動方程式に対しても拡散現象を示す結果が得られた.東京理科大学の側島基宏氏の協力のもと,対応する放物型方程式の解の最良な評価および,重み付きエネルギー法の改良によって,先行研究よりも一般的な摩擦項に対し,解が時間無限大で対応する放物型方程式の解に漸近すること(拡散現象)を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間変数に依存しかつ効果的な摩擦項をもつ非線形消散型波動方程式については,一般的な状況のもとで漸近挙動について精密な結果が得られ,さらに今後の研究に有用な手法を開発することができた.しかし非効果的な係数をもつ場合の研究はあまり進展が見られず,次年度の課題として残されることとなった.よって総合的にみて,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず初年度で開発した自己相似変換と分数階積分作用素を用いる手法を用いて,消散型波動方程式の解の高次展開可能性と摩擦項のオーダーの関係を明らかにする. また,空間変数に依存する摩擦項をもつ消散型波動方程式について,摩擦項が空間遠方で増大する場合の拡散現象について研究を行なう.半群理論を用いて対応する放物型方程式の解の最良な評価を導出し,消散型波動方程式の解の漸近挙動に応用する. また,初年度では結果が得られなかった非効果的な摩擦項をもつ場合について,線形方程式の解の散乱および非線形問題の臨界指数について研究を行なう.まずは摩擦項が遠方で十分速く減衰している場合に絞って研究を進める. さらに,消散型波動方程式と波動方程式を連立させた非線形系についても研究を行い,Strichartz評価などの非線形波動方程式の方法を用いて時間大域的適切性について考察する.
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