研究課題/領域番号 |
15J01603
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 貴之 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | イオン伝導 / ナノ材料 / 相転移 |
研究実績の概要 |
近年、スマートフォンやノートパソコンといったポータブルデバイスの急速な普及に伴って、バッテリーの性能や安全性の向上に注目が集まっている。現在のバッテリーでは液体の電解質を用いており、液漏れや発火事故など、安全性の問題が指摘されている。そこで電解質として固体を用いた全固体型電池の研究が盛んに行われているが、固体中では液体に比べてイオンの拡散が遅く、高いイオン伝導性を示す固体電解質の開発が課題となっている。固体電解質の候補として、ヨウ化銀が挙げられる。バルクのヨウ化銀は常温常圧でイオン伝導性に乏しいβ/γ相として存在するが、147 ℃以上でα相に相転移し、非常に高いイオン伝導性を発現する。しかしα相は高温でしか安定に存在することができず、電池への応用には大きな課題が残されている。このような課題を解決する方法の一つとして、ヨウ化銀のナノサイズ化に関する研究がなされており、粒子サイズを小さくすることでα相が低温まで安定化されることが先行研究により報告された。粒径10 nmのヨウ化銀ナノ粒子では40 ℃までα相が安定に存在するが、依然として室温までα相を安定化させた報告例はない。 そこで本研究では、「粒子サイズ」・「圧力効果」・「化学ドーピング」に着目し、ヨウ化銀のα相を室温以下まで安定化させることを目的とした。 当該年度では粒径約10 nmのヨウ化銀ナノ粒子に対して、高圧力下における結晶構造解析とイオン伝導度測定を行うことで相転移挙動を詳細に調べた。その結果、0.18 GPaの圧力下で20 ℃においてもα相が安定に存在することを見出した。これは室温以下までα相を安定化させた初めての例であり、今後の全固体型電池の研究の上で非常に重要な結果であると考えられる。 また、当該年度ではその他にも粒径3 nmのヨウ化銀量子ドットやヨウ化銀ナノ粒子への化学ドーピングの影響についても研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
【圧力効果】 当該年度は、粒径10 nmのヨウ化銀ナノ粒子を作製し、圧力下における粉末X線回折測定およびインピーダンス測定から高圧下での相転移挙動とイオン伝導性について調べた。その結果、0.18 GPaの圧力下では20 ℃においてもα相が安定に存在することを見出した。これは室温以下までα相を安定化させた初めての例であり、ナノ学会第13回大会において若手優秀ポスター発表賞を受賞するに至った。また、さらに低い温度ではこれまでに報告例のない新規結晶相の存在を示唆するデータも得られ、当初の計画以上に進展していると言える。 【サイズ効果】 当該年度は、すでに作製している粒径3 nmのヨウ化銀量子ドットに対して示差走査熱量測定およびX線吸収微細構造解析を行い、相転移挙動の解明と詳細な構造解析を試みた。先行研究から、このサイズのヨウ化銀ではα相が室温以下まで安定に存在することが予想されていたが、実際にはα相の存在を示すデータは得られなかった。構造解析の結果、ヨウ化銀量子ドットではバルクや10 nm程度のヨウ化銀とは異なった構造を有していることが示唆された。この結果はサイズ効果が結晶構造に影響を与えたことを示唆しており、当初の計画以上に進展していると言える。 【化学ドーピング】 当該年度は、ヨウ化銀に臭素をドープしたヨウ化銀―臭化銀混晶ナノ粒子の作製を試みた。粉末X線回折測定の結果、臭素の量が増加するに従って相分離の傾向が見られたが、部分的に混晶化したナノ粒子の作製に成功した。示差走査熱量測定の結果、臭素の増加に伴ってα相が低温まで安定化することが明らかになった。特にヨウ素と臭素の比が6:4となるように調製した混晶ナノ粒子では18 ℃までα相が安定化していることを見出した。この結果は化学ドーピングにより常温常圧でもα相の存在が可能になったことを示しており、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
【圧力効果】 今後は、さらなる圧力実験によりヨウ化銀ナノ粒子の高圧下における相転移挙動とイオン伝導性を体系的に調べ、圧力効果を詳細に調べる。また、これまでに得られた新規結晶相の構造解析を行う。 【サイズ効果】 今後は、固体核磁気共鳴分光法などにより構造に関するデータを集め、粉末X線回折測定やX線吸収微細構造解析の結果も踏まえて構造に関して多方面から評価する。また、イオン伝導度測定も行い、サイズ効果が結晶構造や相転移挙動、イオン伝導性に及ぼす影響を詳細に議論する。 【化学ドーピング】 今後は、作製法を検討することでより高度に混晶化したナノ粒子の作製を目指す。作製した試料は粉末X線回折測定や透過型電子顕微鏡観察などにより構造を評価し、示差走査熱量測定により相転移挙動を調べる。また、インピーダンス測定によりイオン伝導性を評価し、化学ドーピングが及ぼす影響を体系的に理解する。
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