研究課題/領域番号 |
15J01626
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菊池 勇太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | カイラル磁気効果 / ワイル半金属 / 量子異常 |
研究実績の概要 |
カイラルフェルミオンが存在する系は電磁場の下で量子異常を起こすことが知られている。この量子異常により磁場の方向に電流が流れる、いわゆるカイラル磁気効果が原子核・物性物理の両分野で大きく注目を集めている。原子核物理においては、重イオン衝突実験でこの効果の観測が期待されているが未だにその存在は明らかになっていない。一方で、物性物理では、ディラック/ワイル半金属における実験ですでに観測されており、理論の面でもさらなる発展が続いている。 ワイル半金属におけるカイラル磁気効果について主に2つの研究を行った。 一つ目は、ワイル半金属でカイラル磁気効果を起こすための新たなメカニズムの解明を行った。通常、ワイル半金属における量子異常による現象を解析する際には相対論的な系との類似点に注目して相対論的場の理論の手法が適用されてきた。本研究では、ローレンツ対称性が破れていることにより生じるカイラル磁気効果について議論した。そのような系でカイラル磁気効果が生じるメカニズムを解明した、この効果により流れる電流を計算した。また、候補となる物質を特定し、具体的な実験の提案、および観測量の予測を行った。二つ目の研究においては、一つ目の研究に引き続き、ローレンツ対称性が破れている場合のカイラル磁気効果についてさらに解析を進めた。一般に対称性が少なくなると系を記述するモデルの構築が難しくなるが、本研究では、カイラル磁気効果をモデルに依存せずに計算することに成功した。さらにワイル半金属を特徴付けるトポロジカル数に対する依存性も明らかにした。 これら二つの研究によりローレンツ対称性の破れたモデルで記述されるワイル半金属における輸送現象の理解が大きく進んだ。これらの研究はすでに論文になっており、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度行った二つの研究により、ワイル半金属における輸送現象、特にカイラル磁気効果に関する理解は大きく進んだ。それぞれの研究をまとめた論文はすでに雑誌に投稿済みであり、現在査読中である。半金属における非平衡現象を解明するという今年度の計画は概ね達成したため、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、ワイル半金属におけるカイラル磁気効果が誘導する輸送現象について定量的な予測をした。さらに、その研究の過程で、ワイル半金属ではさらなる新奇な効果が期待されることが示唆された。 今後の研究では、半金属で実現可能な新しい輸送効果のメカニズムを解明するとともに、実験での観測に関する提案を行う。特に新しく提案した効果を実験で観測するために、1) その効果から誘導される輸送現象について定量的な予言を行い、それらの結果が観測可能であることを示す、2) 適切な実験のセットアップや効果の観測が期待される物質について具体的な提案を行う、という二つのことが重要となる。
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