研究課題/領域番号 |
15J01706
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
田上 友貴 熊本大学, 医学教育部, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | Chk2 / Rad18 / 分裂期細胞死 / 生殖細胞 |
研究実績の概要 |
(1) Chk2による分裂期細胞死の解明:Chk2による分裂期での細胞死を解明するために、インキュベーター型蛍光顕微鏡を用いてマウスES細胞を培養しタイムラプス観察によるイメージング解析を行った。恒常的に安定してイメージングできる細胞を調製することに成功した。細胞にUVを照射してゲノムDNAを損傷させると、典型的なアポトーシス像ではなく、主に細胞分裂期で細胞死がおこることがわかった。さらに分裂中期に細胞の赤道線沿いに染色体が集積した後に核が崩壊して死に至るタイプと、分裂後期まで進行した後に核が崩壊するタイプの2通りの細胞死像が見られることがわかった。 (2) Chk2による細胞周期制御機構の解明:ES細胞周期調節機構を定量的に調べるため、フローサイトメトリーを用いて細胞周期の解析を行った。subG1の割合はRad18欠損細胞で最も高く、Chk2を欠損するとその効果は打ち消された(相補された)。このため、Rad18欠損細胞ではDNA損傷によりChk2が活性化して細胞死を誘導することが示された。またG1/S チェックポイントに関しても、Chk2により誘導されることが示された。 (3) Rad18・Chk2によるテロメアなどの複製困難領域の複製促進制御機構の解明:Rad18またはChk2がゲノムDNAの安定性を維持するために、テロメアなどの複製困難領域の複製を促進する制御を行っている可能性を検証した。WT、Rad18欠損細胞ではテロメアが欠失している細胞がみられた。Chk2欠損細胞では逆にこのテロメア数が増加している染色体が観察された。このため、Rad18とChk2は異なる機構によりテロメアなどの複製困難領域の複製の支援を行っている可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) Chk2による分裂期細胞死の解明:恒常的に核と細胞膜をモニターできるES細胞を調製できたため、分裂期で特異的におこる細胞死を観察できる系を構築できた。この結果は今回の研究目的だけでなく汎用性が高い。また、分裂期細胞死にも2つのタイプがあることがわかり、これは生殖細胞でも見られるか興味深い。 (2) Chk2による細胞周期制御機構の解明:Rad18は複製後修復を中心的に制御する。この機能が欠損すると、Chk2による細胞周期制御機構が強く誘導されることがわかった。この結果は、この2つの遺伝子の相補的関係を裏付けるものである。 (3) マウス精巣の生殖細胞維持における分裂期細胞死の役割の解明:精巣片を用いるin vitro培養系の構築に向けて準備している段階であり、今後の努力が必要である。 (4) マウス受精卵の卵割または発生時におこる分裂期細胞死の役割の解明:核および細胞膜をモニターできるライブマウスを導入した。すでに人工授精して胞胚まで観察する系は立ち上げてあるので、理論的にはこの課題を遂行できる状態にある。
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今後の研究の推進方策 |
Chk2による細胞死の誘導機構を分子レベルで明らかにするために、Chk2によりリン酸化を受ける新規の分子を同定する。その分子がどのようにして分裂期での細胞死を誘発するか、機構を明らかにする。データベース検索により、Chk2によりリン酸化を受けて細胞死に関与するとみられる分子がある。その分子の寄与をみるため、リン酸化を受けるアミノ酸部位に変異をもつ分子を発現させて影響を見る予定である。生殖細胞での細胞死の誘導機構についても調べる予定であったが、平成28年熊本地震の影響により多くの機器が故障し研究室の移動などが必要となったため、今後、研究室の復興とともにその研究計画を練り直してゆく。
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