研究課題/領域番号 |
15J01725
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐々木 彩名 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 細胞競合 / 発がん初期 / 生活習慣 / Apical Extrusion / 細胞競合マウスモデル / Ras / 肥満 |
研究実績の概要 |
がんの極初期段階を模倣するため、正常上皮細胞層内にごく少数の変異細胞(がん遺伝子Rasの恒常活性化型タンパク質過剰発現細胞など)を生じさせると、変異細胞が正常細胞に囲まれたときにのみ、変異細胞が細胞層の頂端側へ排除される様子が観察される。この排除現象は変異細胞単独で培養した場合には起こらないことから、細胞競合現象(2種の細胞が存在した場合に、一方が競合的に排除され、もう一方が生き残る現象)に分類されると同時に、正常上皮細胞層に備えられた「変異に対する防御機構」の一種ではないかと提唱されている。 しかしながら、このような防御機構の存在にも関わらず発がんしてしまうのはなぜなのか、実際の生体内においてどのような頻度で発がんを防いでいる現象なのか、これらの疑問についてはまだあまり明らかとされていない。そこで、この疑問に対し、「細胞競合の発生頻度に影響を与える環境因子を見つけ、この因子と発がんの関係を調べることで、細胞競合と発がんの本質的な関係性にアプローチできるのではないか」との考えのもと、所属研究室にて開発した細胞競合マウスモデルを用いた実験を試みている。 採用初年度である本年度は「細胞競合マウスモデルを用いた細胞競合破綻条件の探索」を行うため、(1)高脂肪食投与による肥満モデル、(2)抗生物質による腸内細菌除去モデル、(3)インドメタシンを用いた腸炎モデル、という3条件が細胞競合に与える影響を検討した。 その結果、特に(1)のモデルにより肥満が細胞競合による変異細胞の排除を抑制することが示唆された。(2),(3)のモデルについては条件の最適化を終了し、現在解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、細胞競合による変異細胞の正常上皮細胞層からの排除が、実際に発がん抑制に関わるかどうかを検討する目的で、初年度に「細胞競合による変異細胞の排除が抑制される環境因子の同定」を行い、次年度以降に「細胞競合を破綻させる環境因子のメカニズム解明」を行う予定としていた。 採用初年度である本年度は、「細胞競合による変異細胞の排除が抑制される環境因子の同定」として、すでに確立された細胞競合モデルを用い、これに(1)高脂肪食による肥満モデル、あるいは(2)抗生物質投与による腸内細菌除去モデル、(3)インドメタシン投与による腸炎モデル、を合わせることで、肥満、腸内細菌、腸炎という3条件と細胞競合との関連を検討した。 その結果、肥満が細胞競合による変異細胞の排除を抑制することが示唆された。肥満は、大腸がんにおける環境因子の一つとして考えられており、本研究はこのことに細胞競合という新たな観点を与える可能性があると考えている。(2)、(3)に関しては実験条件の検討を終え、現在解析中である。 以上のことから、「細胞競合による変異細胞の排除の抑制環境因子」の一つとして肥満を同定し、本研究課題はおおむね順調に遂行できていると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のように本研究計画では、細胞競合による変異細胞の正常上皮細胞層からの排除が、実際にどの程度発がん抑制に関わっているのかを検討することを目的としている。 このため、今後は上述のように細胞競合との影響が明らかとなった、(1)高脂肪食による肥満モデルについて、「肥満による生体内でのどのような変化が細胞競合を抑制したのか」など、肥満による細胞競合抑制のメカニズムの解析を、マウスモデルのみならず培養細胞系も合わせて用いることで、進めていく。また同時に、肥満マウスモデルと細胞競合による変異細胞の排除を誘発する薬剤(当研究室にて他研究者が開発中)を合わせて用い、その発がん性を検討することで、発がんにおける細胞競合の意義に迫る予定である。 また、同時に上述の(2)抗生物質投与による腸内細菌除去モデル、(3)インドメタシン投与による腸炎モデル、これら2条件における細胞競合への影響の解析も引き続き進めていく。 研究はこれまでのところ順調に推移しており、現在のところ研究計画変更の必要性および研究遂行上の問題点はない。
|