研究課題/領域番号 |
15J01745
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下山 裕太 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | 高温高圧 / 溶融鉄 / X線吸収法 / 超音波法 / 同時測定 / 放射光 |
研究実績の概要 |
本研究では小惑星内部核を想定した溶融鉄系の密度-音速同時測定を高温高圧下で測定できる装置開発を行い、Fe-C系融体の熱弾性的性質を解明した。 太陽系の惑星のうち、水星、金星、火星及び地球は珪酸塩鉱物や金属核から構成される地球型惑星である。これら惑星の中心は鉄を主成分とした核が存在している。地球の核は地震波観測や磁場の観測から、液体層(外核)の存在が明らかとなっている。この外核の密度や縦波速度の値を溶融鉄と比較すると、外核の密度は溶融鉄よりも小さく、また縦波速度は速いことが知られている。したがって外核には鉄の比重を小さくする軽元素が存在すると考えられている。この軽元素の候補として硫黄、酸素、珪素、水素、炭素などが考えられているが、どの元素がどの程度核に含まれているかは分かっていない。 したがって、本研究では軽元素候補の1つである炭素に着目し、高温高圧下における密度-縦波速度の同時測定が可能となるよう装置設計を行い、小惑星内部環境を想定した条件下で測定し炭素の溶融鉄の密度や音速へ与える効果を調べた。測定には大型放射光施設SPring-8の原子力研究開発機構専用ビームラインBL22XUにあるキュービックアンビルプレス高温圧力発生装置(SMAP-180)を用いた。密度測定はX線吸収密度法を、音速測定は、超音波法(パルスエコーオーバーラップ法)を採用した。 実験測定の結果、圧力-温度条件は3.4 GPa, 1850 Kまでの範囲内で密度-音速同時測定に成功した。Fe-C系の音速値は溶融鉄と比較して数%程度下回る結果となった。また密度に関しても同様に炭素の含有によって2%程度下回る結果となった。この結果から炭素は溶融密度の音速や密度値を減少させる結果となることが明らかとなった。また、音速の温度依存性を調べた結果、Fe-C系の音速は温度上昇と共に減少する結果となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
惑星核の重要な観測量及び物性量であるFe-C系鉄合金を試料とし、放射光と高温高圧発生装置及び音波法を組み合わせた、高温高圧下における融体の密度と音速の同時測定を実現するという、新規性のある課題に取り組んできた。試料室の構成を何度も工夫し、最終的に3.4 GPa, 1850 Kまでの条件で精密測定に成功した。その結果、炭素が含まれた小型天体の液体核条件では、純鉄に比べて密度や音速が低下し、両者の経験的な線形関係を示すバーチ則の評価では温度依存性が無視できることを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
申請者はこれまで地球深部へもたらされた炭素の溶融鉄密度や音速へ与える効果を調べてきた。 現在の地球内部の炭素分布を知る上では、まず核マントル分離が起こった初期地球での炭素挙動の解明が重要となる。これは初期の炭素循環メカニズム次第で内部の炭素分布は大きく変化するためである。最近の初期地球における炭素循環モデル(Dasgupta, (2013))によると、初期地球大気に豊富に含まれる炭素ガスはマグマオーシャン表層で反応し、一部はマグマオーシャンに取り込まれる。そして、マグマオーシャン中では溶融鉄と珪酸塩メルト間における炭素分配が起こる。さらに炭素を含む溶融鉄は密度差によって深部まで沈むことが提唱されている。しかし、これはモデル計算の段階であり、マグマオーシャン内部に入り込んだ後の炭素の挙動はマグマに溜まるか、鉄に取り込まれて沈むかは実験的には一部分しか明らかとなっていない。 今後は地球深部の炭素環境を推定するために炭酸塩鉱物などの炭素を含有した鉱物や珪酸塩メルト-CO2系を測定対象とし、地球深部の炭素循環に着目した研究を行う予定である。測定手法は申請者が新たに開発した密度-音速同時測定システムを用いる。
|