研究課題
本研究では,C/N栄養応答による花成制御シグナル伝達経路の解明を目指している。方法としては,網羅的解析によって候補となる因子を探索し,既に知られている花成制御関連因子との関係性を検証していくことで同定を目指した。具体的にはまず,C/Nストレスによってリン酸化状態が変化するタンパク質の網羅的解析(リン酸化プロテオーム)によって,花成において極めて重要なシグナル伝達経路としてよく知られている光周期依存経路の上流で働く転写因子を同定した。この転写因子は高C/低Nストレス,特に低Nストレスによく応答し,実際にリン酸化を受けることが確認できた。また,この転写因子によって制御される,光周期依存経路の重要遺伝子群の発現も,高C/低Nもしくは単に低Nストレスによって促進されることがわかった。このような遺伝子群の発現変動は,一過的なC/Nストレス処理を施した場合だけでなく,長期的な水耕栽培を行った場合でも見られており,水耕栽培では実際に,花成が光周期依存経路に強く依存する長日条件において,低N条件で花成の早期化が見られた。さらに,光周期依存経路の重要遺伝子(同定した転写因子の下流)を欠損させた変異体では,低N条件でも早期の花成誘導が起こらなかった。これらのことから,低Nシグナルがある転写因子のリン酸化を介し,光周期依存経路を促進することで早期の花成が誘導されることが示唆された。現在転写因子のリン酸化の意義の評価を中心に詰めたデータを集めている。光周期依存経路の重要遺伝子の変異体では,単なる低Nによる早期花成の誘導は起こらなくなったが,ここに高Cの影響が加わる高C/低N条件では,やはり早期花成が誘導されることが分かった。このことから,C/N栄養シグナルによる花成制御メカニズムとしては,光周期依存経路を介するものと,介さないものの二種類があると考えられ,現在その詳細解明を目指している。
2: おおむね順調に進展している
全く未知であったC/N栄養応答による花成制御の分子メカニズムが,本研究によって明らかになりつつある。昨年度発見した光周期依存経路の詳細については詰めきれていない部分もあるが,今年度は光周期依存経路を介さない新たな経路の存在も示すことができ,横に広げることができた。
一つは,光周期依存経路を活性化させる転写因子のリン酸化の効果についての詳細な検証を行った上で論文としてまとめることを目標とする。その後はその転写因子をリン酸化するキナーゼの同定や,光周期依存経路に依存しない二つ目の経路について解析を深めていく。
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Molecular Plant
巻: 10 ページ: 605-618
10.1016/j.molp.2017.01.005.