研究実績の概要 |
鉄系超伝導体において結晶構造と超伝導転移温度 Tc との間には顕著な関係があることが知られている。このことから、この系における超伝導発現機構を解明するためには、結晶構造の変化に対して電子構造がどのように変化するのかを調べることが重要である。 今回、我々は結晶構造の異方性c/aが小さく、フェルミ面がさらに3次元的になっていると考えられる、Sr1-xCaxFe2(As1-yPy)2 (x = 0.08, y = 0.25, Tc=32K)の電子構造を角度分解光電子分光(ARPES)で測定した。偏光を変えながら、複数の励起光エネルギーにおいてフェルミ波数(kF)を求めたところ、Γ点((kx,ky,kz)=(0,0,0))付近でdxy軌道由来と考えられるバンドがフェルミエネルギー(EF)以下に沈んでいることがわかった。この結果はSrFe2(As1-yPy)2の先行研究の結果と一致しており、結晶構造の強い三次元性を反映していると考えられる。また、ホール面、電子面のいくつかの位置において超伝導ギャップを測定したところ、ホール面では、等方的に超伝導ギャップが開いていることがわかった。一方、X点((kx,ky,kz)=(π,π,0))付近に2枚存在する電子面では、内側の電子面における超伝導ギャップでは異方的ではあるが、有限の超伝導ギャップが開いていたのに対し、外側の電子面における超伝導ギャップにおいてフェルミ面のある位置に向かって急速にギャップエネルギーが小さくなる振る舞いが見られ、この位置においてノードが存在する可能性がある。今回得られた超伝導ギャップの異方性は先行研究におけるBaFe2(As1-yPy)2 (y=0.30)の超伝導ギャップの異方性とは異なっており、超伝導ギャップの異方性と結晶構造の異方性c/aに相関があることを示している。
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