研究実績の概要 |
鉄系超伝導体の超伝導発現機構解明において、波数空間上での超伝導ギャップの異方性を測定することは非常に重要である。去年度の角度分解光電子分光実験(以下ARPES)において、我々はSr1-xCaxFe2(As1-yPy)2 (x = 0.08, y = 0.25)のフェルミ面の形状やいくつかの高対称点における超伝導ギャップを測定した。その結果、X点付近の外側の電子面において、ノードの可能性がある最小ギャップを観測した。一方、強束縛近似+RPAの計算によると、Pを置換した122系の超伝導ギャップにおいて、Z点付近にある一番外側のホール面においてノードが存在すると指摘されている。 今回、我々はSr1-xCaxFe2(As1-yPy)2 (x = 0.08, y = 0.25, Tcmax=32K)の電子構造、特にZ点付近の超伝導ギャップ構造をARPESにより観測した。Z点付近の超伝導ギャップは弱い異方性を示したものの、ノードのような振る舞いは見られなかった。今回得られた結果と前年度までに得られた結果を合わせると、軌道内ネスティングによるスピン揺らぎのみでは、この物質の超伝導発現機構を説明するには不十分であると考えられる。 また、BaFe2(As1-xPx)2の超伝導ギャップについて情報を得るためにラマン散乱分光測定を行った。Tc以下の温度でのスペクトルではA1g,B2gの偏光において対破壊ピークが見られている。しかし、低エネルギー領域において、A1g偏光のスペクトルはエネルギーによらず一定の値を示すのに対し、B2g偏光のスペクトルはエネルギーの3乗に比例する振る舞いを示した。この振る舞いは、ホール面ではノードのないフルギャップが現れており、電子面ではノードの発現、または、強い異方性をもつギャップが現れていることを示唆している。
|