研究課題/領域番号 |
15J01814
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉池 遼 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | クォーク / 相転移 / ゆらぎ |
研究実績の概要 |
これまでの研究ではクォーク質量は無視していたが、クォーク質量を正しく考慮すると、クォーク質量は非一様カイラル相を狭める効果があることが分かった。一方で外部磁場は反対に非一様カイラル相を広げるという競合関係にあることが分かった。これにより、従来非一様カイラル相は低温高密度の領域に現れるものと考えられていたが、クォーク質量を考慮したとしても十分に強い外部磁場の元では、低密度の領域まで広がることが示された。これまで非一様カイラル相の解析は有効模型を用いなければならなかったが、低密度の領域は格子QCDで直接計算する手法が考えられており、QCDから非一様カイラル相の存在を確かめることができる可能性を示した。 また前年度は、主に平均場近似の下で非一様カイラル相の解析を行なっていたが、今年度の新たな試みとして平均場近似の制限を超えて解析をするための定式化を行った。具体的には、ゆらぎの効果を摂動的に取り込むことで、カイラル対称性が回復した相から非一様カイラル相への相転移の性質が解析できるようになった。その結果、従来の平均場近似の下での解析では2次相転移であったのに対し、揺らぎを考慮すると1次相転移になる場合があることを示した。この性質の変化には非一様相転移に特有なループ積分の発散が影響しており、特に有限温度領域でこの発散が強くなることが分かった。さらにこの発散は粒子数やエントロピーといった物理量にも影響を与えるため、今後の重イオン衝突実験において、非一様相転移特有の物理量の変化が観測される可能性が示唆される。またこれらの性質は非一様カイラル相における非一様構造の詳細によらず、1次元的な非一様構造をもった相に転移するときには共通して現れるものである。またこの研究結果は論文にまとめられ、Physical Review Dから出版済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画では、非一様カイラル相を考慮した上で、2倍の太陽質量を支えられるような現実的な状態方程式の構築と、揺らぎの効果が非一様カイラル相転移にもたらす影響の解析を行う予定であった。 今年度は特に揺らぎの効果の解析について大きな進展があり、この研究の成果を基に日本物理学会で口頭発表を行った。また既に研究結果は論文としてまとめられ出版済みである。この研究では、これまでの研究において主に平均場近似の下で非一様カイラル相の解析を行なっていたのに対し、平均場近似の制限を超えて揺らぎの効果が相転移に与える影響を調べた。具体的には、ゆらぎの効果を摂動的に取り込んだ有効ポテンシャルの定式化を行い、カイラル対称性が回復した相から非一様カイラル相への相転移の性質が解析できるようになった。この解析から、平均場近似の下での解析では2次相転移であったのに対し、揺らぎの効果により1次相転移になる場合があることが分かった。さらに、ゼロ温度と有限温度の場合を比較することにより、揺らぎの効果は有限温度においてより強くなることが示された。この違いは非一様相転移に特有なループ積分の発散の強さが、温度によって変わることに起因している。この発散は粒子数やエントロピーといった物理量にも影響を与える。そのため重イオン衝突実験において、クォーク物質が非一様カイラル相転移を経た場合、この相転移特有の物理量の変化が観測される可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として、当初の研究計画に則ったものと、今年度の研究の進展により新たに生じた課題を解決するものの2通りが考えられる。 当初の計画に則ったものとしては、より揺らぎの効果を正しく取り込むための定式化が挙げられる。今年度の研究では揺らぎを摂動的に取り入れただけで、相転移の性質に大きな変化が見られた。しかし摂動的に定式化では、解析できる領域が相転移の近傍のみであり、パラメータにも大きな制限がかかってしまう。そこでより広い領域を解析するための方策として、汎関数くりこみ群を用いた定式化を考えたい。従来の汎関数くりこみ群の研究は、一様な相転移の場合についてのみであるため、非一様な構造を持った相に適用できるような拡張が必要である。 今年度新たに生じた課題としては、物性系で盛んに研究されているFFLO超伝導と、非一様カイラル相の間にある普遍性の探索が挙げられる。今年度得られた揺らぎによる相転移の性質の変化に対して、FFLO超伝導相転移においても良く似た性質が知られている。さらにカイラル相転移を記述するNJL模型と、超伝導相転移を記述するためのクーパー対模型にはある種の普遍性があることが知られている。このことから両者の間に関係を明らかにすることは大変興味深い課題である。まずは解析的な計算を実行できる空間1次元の系を解析することで、類似点と相違点を探索したいと考えている。
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