研究課題/領域番号 |
15J01822
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
多田 幸平 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
キーワード | 金触媒 / 第一原理計算 / 密度汎関数理論 / 貴金属固定化 / 省貴金属化 / 触媒機構解明 / 界面電子状態 / 表面化学修飾 |
研究実績の概要 |
採用1年度では、調製法の差異による金の触媒機能の発現の違いを明らかにした。 清浄な酸化物表面と金クラスター間の相互作用は非常に弱く、その弱さゆえに金を酸化物表面上に固定化し金クラスターの凝集を抑制することはできない。そのため、担体表面上には金クラスターを固定化し、その凝集を抑制するサイトが必要となる。そのようなサイトとして働くのが酸素欠陥サイトである。酸素欠陥サイトに金クラスターが固定化されることは、既に理論・実験の双方から指摘・証明されていたが、凝集抑制効果があることを本研究が初めて理論的に実証した。また、酸素欠陥だけでなく、隣接したリン酸基の架橋サイトが金クラスターを固定化し凝集を抑制することが本研究によって新たに示された。 酸素欠陥サイトには金クラスターよりも塩素のほうが強く吸着され、酸化物から金への電子移動が塩素により阻害されることが本研究によって明らかとなった。この結果は、塩素の共存により酸素欠陥の金クラスター固定化効果と凝集抑制効果が消失することを意味している。このことが、塩素共存化では金クラスター担持酸化物触媒が創成されない理由の一つだと考えられる。 金クラスター担持酸化物触媒の触媒活性の量子化学計算にも着手した。具体的には、アリルアルコールの転化反応、メタクリル酸メチルの合成、CO酸化、プロピレンのエポキシ化である。このうち、論文としてまとめるに至ったのはCO酸化反応だけであるが、その他の反応に関しても有用な知見が得られており、採用2年度も継続して研究を行っていく予定である。 金触媒の反応機構を検討するにあたって、現在主流であるpure-DFT法では活性化障壁を十分に検討できないことが本研究を実施していくうちに明らかとなってきた。そこで、より高精度計算を実施できるような方法論の構築も並行して行うこととした。この研究も採用2年度において継続して行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高活性な金クラスター担持酸化物触媒の創成に必要な要素に関して研究を行った。その結果、金触媒調製における実験事実を矛盾なく説明する機構が解明された。具体的には、酸素欠陥による金の凝集抑制機構の解明、酸化物表面に対するリン酸修飾効果の理論的解明、共存塩素による金凝集促進機構の理論的解明である。これらの研究をまとめることによって、金触媒の創生に関して、金と酸化物関の電荷移動を促す化学修飾が重要であること、金の固定化サイトを占有する可能性のある科学種の混入は焼成前に必ず除去しなければならず、またその除去も焼成前で行った方が容易であることが分かった。このように、金触媒の創成機構解明に関しては大きく進展した。 金クラスター担持酸化物触媒の反応機構探査にも着手している。具体的には、アリルアルコールの転化反応、メタクリル酸メチルの合成、CO酸化、プロピレンのエポキシ化である。現状、論文としてまとめるに至っているのは共同研究であるCO酸化反応だけであるが、これは他の反応が現状主流の計算手法では検討困難(不可能といったも差し支えない)であるためである。この現状を打破するために新たな方法論の確立を試みているところである。論文としてまとめるには至っていないが、量子キャップ法と近似スピン射影法の併用によって、従来の計算手法に含まれる誤差を大きく改善することに成功するなど、非常に良い結果が得られ始めている。この新規手法開発は当初の予定には含まれていなかったが、反応を検討するためには無視することは決してできないことである。そのため、当初の研究予定と比較して、反応機構解析の点では遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
反応機構を詳細に検討することのできる方法論の確立を続けて行う。現在、量子キャップ法と近似スピン射影法の併用により、その誤差を大きく改善することには成功しているので、この手法に対してさらなる改良を加えていく予定である。 当初の予定にあった半経験的手法のパラメーター作成も行っていく予定である。前述の通り、金触媒の反応機構の解析は第一原理計算においても困難を極めているが、なかにはCO酸化反応など実験の先行研究が豊富であるおかげで解析が可能なものもある。これらの反応に関して半経験的手法を用いてより実在系に近い検討を試みる予定である。 また、水の影響が顕著であるプロピレンのエポキシ化に関しても検討を行いたい。CO酸化と比較すると、実験からの知見は乏しく理論計算だけでの研究遂行は困難となる。そのため、採用2年目では理論計算だけでなく実験・測定研究も行える研究室に移り研究を継続していく。
|