研究課題/領域番号 |
15J01826
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
金 跳咏 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 金工品 / 日韓交渉 / 帯金具 / 象嵌 / 三国時代 / 古墳時代 |
研究実績の概要 |
1年目には、中国大陸で製作され、朝鮮半島や日本列島に伝わたと思われる晋式帯金具に注目した。朝鮮半島や日本列島の資料もあわせて分析し、東北アジアの観点から中日韓から出土する晋式帯金具の意味を考察した。2年目には、1年目に続いて朝鮮半島や日本列島の帯金具に注目し研究を進めた。晋式帯金具の移入と在地生産がうかがえる三燕地域をはじめ、高句麗・新羅・百済地域、そして倭の帯金具を集成し、型式学的分析を行った。その結果、今まで注目を浴びなかった新羅の逆心葉形帯金具に関して新たな知見を得ることができ、新羅における帯金具の展開過程をある程度明らかにすることができた。 一方、金・銀・金銅などで作られた帯金具を含めた金工品には、当時の器物を作った工人に関する様々な情報も含まれている。博士論文の第2部では、そのような金工品を作った工人を考える1つの方法として鏨という鉄製の工具を技術史的に検討したい。 今年は、金工品の製作における必須条件ともいえる鋼の作り方、製鋼法に関する研究を整理した。帯金具をはじめ、金工品の製作には、必ず鉄製の工具が必要である。しかし、一口で鉄と言っても、中に含まれている炭素量によって性質の異なる様々な鉄がある。その中で工具の材料たる鋼は、焼き入れと焼き戻しという熱処理によって硬くて粘り強くなれる唯一な鉄素材である。したがって、古代においてどのような方法で鋼を生産できたのかという問題は、金工品の生産とも密接に関わっている。言い換えれば、鋼が手に入れなければ、金工品の生産と普及も不可能になる。2年目にはこれまで言及された製鋼法に関する論文を整理し、最近増加する朝鮮半島の中部地域の調査事例を挙げ、朝鮮半島における製鋼法が原産国時代まで遡る可能性を確認した。古墳時代・三國時代に出現する金工品と金工技術の背後には、このような鉄の技術的な発展があったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に予想した通り、研究が進んでいると思う。まず、博士過程1部である東アジアにおける金工品、その中でも帯金具の調査を1、2年目を通じて着実に進めたと思う(1章~5章)。現在、晋式帯金具の調査や分析(1章)、三国時代の新羅帯金具の調査と分析(2章)をある程度完了した。今年は、百済と加耶の帯金具(3章)、倭の帯金具の資料集成と分析(4章)を行う予定である。 博士2部では「鏨」という道具に注目したい。このため、まず鏨の材料たる鋼、つまり鉄の材料に注目し、古代東アジアにおける製鋼法(5章)を完了した。6章では、古代において東アジアの象嵌技術、7章では毛彫りという特殊な鏨を取り上げ、古代日韓の交渉様相を明らかにして行きたいと思う。 しかし、実際に日本語を書く作業が思ったより多くの時間を要すると思われる。韓国語を日本語と翻訳するのに、そのくらいの時間を消費するかが博士論文を完成する上で重要な作業の中で1つになるだろうと思う。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では日韓交渉というテーマに近づくため、金工品、その中でも特に帯金具という特定の器物の分析を進めた。金工品には、当時において政治体の正体性が反映されていることから大きい意味があるが、当時の金工品には帯金具のみが存在したわけではない。例えば、被葬者が着装したと思われる冠、飾履、装飾大刀、耳飾なども、当時において朝鮮半島と日本列島に存在していた複数の政治勢力の交渉関係を示す重要な資料ですでに評価されている。本研究を通じて残された課題は、帯金具を含めた多様な金工品の総合的な解釈を通じて、日韓交渉史を再構築していくことにあると思う。 ただ、本研究の2部で鏨という工具に注目したことは、従来の考古学研究においてあまり行われず、注目し得ると考える。鋼で製作された鏨に対する研究は、単に湶彫り技術の比較を超え、遺物から確認できる製作痕跡を観察することで、古代存在していた工人の技術を捉える新しい研究手段と考えられる。本研究では象嵌、毛彫りのような特別な製作技術に注目したが、鏨という工具の重要性は鉄の歴史を把握することにあると考えられる。本研究で捉えられなかった鉄の歴史と技術は、今後の研究課題としたい。
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