研究課題
今年度は、電波のシェルと中心集中のX線放射を持つ Mixed-morphorogy 超新星残骸 G166.0+4.3の天体解析および、イベント駆動型SOIピクセル検出器 XRPIXのエネルギー分解能および量子効率向上のための素子開発を行った。はじめに天体解析について述べる。G166.0+4.3はROSAT、ASCA、XMM-Newtonの3つの過去のX線観測がある超新星残骸であり、これらの結果では超新星残骸内のプラズマは電離平衡または電離進行であるとされてきた。我々は、X線天文衛星Suzakuを用いて計230 ksの観測を行い、領域を分割してG166.0+4.3内の様々な場所のプラズマ状態を調査した。その結果、西の領域は電離進行プラズマであるのに対し、東の領域では再結合(過電離)プラズマであることを初めて発見した。再結合プラズマの生成起源はいまだ分かっていないが、有力な説の一つとして冷たい分子雲と熱接触することによりプラズマの電子温度が低下する分子雲衝突説がある。G166.0+4.3はFermi衛星の観測結果から東の領域はGeVガンマ線で明るいことが知られている。これは、東に分子雲が存在することを示唆し、熱接触で東の領域のみが再結合プラズマになったとすれば我々の解析結果をサポートする。また、各元素の存在比を調査した結果、鉄の分布が西側に偏っていることが分かった。これは、爆発の中心が西側であることを示唆する。素子開発について、エネルギー分解能向上のために読み出し回路の初段にCharge-sensitiveアンプを搭載した素子 XRPIX3bの性能評価を行った。この結果、読み出しノイズが 35 electron (rms) とエネルギー分解能 320 eV @ 6 keV という過去最高の結果を得た。また、低エネルギー側の量子効率の向上のため、新しい裏面プロセスを施した素子 XRPIX2b-Pizza を開発した。性能評価の結果、裏面の不感層の厚みが 0.9-1.0 um を達成し衛星計画の要求性能に大きく近づいた。
2: おおむね順調に進展している
超新星残骸について新発見があり、主著として論文を執筆中である。検出器の論文を主著で一つ作成、共著でもう一つ執筆した。学会発表を多数回行い、うち1回は招待講演だった。これらは進捗予定より進んでいると見なしている。
来年度は、執筆中の超新星残骸の論文の作成と国際学会での発表2回を予定している。また、Suzaku衛星およびXMM-Newton衛星を用いてG166.0+4.3以外の天体からの超新星残骸の再結合プラズマの発見を進める。検出器開発については、今年度の裏面評価についての論文を共著にて執筆予定である。また、XRPIXはイベント駆動の際に回路層のコンパレータの変動がセンサー層に干渉する問題が生じることが知られている。この問題を解決するために回路層とセンサー層の間に電位を固定するためのミドルシリコン層を導入した XRPIX3-DSOI および AXRPIX を開発した。その性能評価から干渉問題が解決していることを示し論文として発表する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Journal of Instrumentation
巻: 10 ページ: C06005
10.1088/1748-0221/10/06/C06005
arXiv
巻: 1509.00538 ページ: C15-06-03