研究課題/領域番号 |
15J01845
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井上 翔太 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 銀河団 / 衝突銀河団 / Abell 754 / 衝突電離非平衡プラズマ / ASTRO-H / Soft X-ray Imager (SXI) / ダークマター |
研究実績の概要 |
本研究は、衝突銀河団中で発生した電離非平衡プラズマを初めて観測し、銀河団進化の様相を定量的に探るということを目的としている。本研究課題ではこれまで、すざく衛星によって観測された衝突銀河団Abell 754のデータを解析し、衝撃波加熱により発生した非平衡電離プラズマの兆候を初めてとらえられた(Inoue et al. 2016)。Inoue et al. (2016)で示唆された衝撃波の存在を示すため、すざく衛星、XMM-Newton衛星のデータを解析した。この結果、ガス密度に衝撃波の兆候を示す不連続面があることがわかり、電波放射のプロファイルと温度の分布から衝撃波であると結論付けた。これは、Inoue et al. (2016)で報告した衝撃波加熱による非平衡プラズマ存在の主張をサポートする結果である(投稿準備中)。 また、昨今議論されているダークマターに由来する3.5keV付近の輝線の有無について、ASTRO-H(ひとみ)衛星搭載SXSで観測されたPerseus銀河団のデータを用いて調査した。その結果、XMM-Newtonの観測結果で示された強度の輝線を99%の有意度で否定することができ、この議論に対して大きな制限をつけることに成功した(Hitomi Collaboration 2017, ApJL, 837, L15として出版)。 以上に加え、ASTRO-H衛星搭載X線CCDカメラ(Soft X-ray Imager; SXI)の開発を行ってきた。ASTRO-H衛星打ち上げ後、軌道上における検出器バックグラウンドについて調査した。その結果、検出器の単位視野あたりにおけるバックグラウンド強度は、すざく衛星と同程度であり、SXIが銀河団などの広がった天体の観測に有用であることを示せた。この結果は、日本天文学会2016年秋季年会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において、Abell 754中で発生した衝撃波の存在を明らかにした。これは昨年度報告していたAbell 754中の電離非平衡プラズマ存在の主張をサポートする結果である。 また、ASTRO-H衛星搭載SXSのPerseus銀河団データを用いた3.5keV輝線の解析では、SXSのデータがこれまでのX線天文学の観測で議論できていた範囲を大きく刷新することを実証した。ここで得た経験が、来年度、自身が主体となって行う本研究課題に沿ったSXSデータの解析で生かされる。 以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Abell 754以外に、多くの衝突銀河団に対して同様の解析を行う。対象の衝突銀河団は、他温度の効果をなるべく無視するため、2つの銀河団の温度が同程度で、クールコア(中心部で温度が低い領域)のないシンプルな系である。Cygnus A clusterなどが候補である。衝撃波付近でのプラズマの電離状態をなるべく多くのサンプルに対して系統的に調べ、衝撃波が与える銀河団プラズマへの影響を調査する。また、SXSのデータを用いてプラズマのイオン温度についても調べ、銀河団プラズマ中の電子、イオンのエネルギー配分について明らかにする。
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