研究課題
前年度までに、Tuft1はmTORC1シグナルを正に制御する因子であることを突き止めており、引き続き、mTORシグナルの制御メカニズムの詳細を検討している。1.TUFT1は小胞輸送を制御するmTORC1活性化の場であるリソソームの細胞内局在を検討した結果、対照細胞においては核周囲に集積するが、Tuft1をノックダウンした細胞においては細胞周辺部に四散した。さらに、初期エンドソームの局在や蛍光標識トランスフェリンの追跡実験の結果もあわせ、Tuft1は小胞輸送の制御因子であることが示唆された。正常な小胞輸送の存在は、mTORC1の活性制御に不可欠だが、その詳細な機序については不明な部分が多い。本研究ではまずリソソームに絞り、mTORC1活性との関連を検討した。モータータンパク質Kif5bを強制発現は、mTORC1シグナルの抑制を認めた。ダイニン阻害剤を用いた場合でも同様な結果を得た。逆に特異的なRab GTPaseであるRab7aを強制発現させ、Tuft1ノックダウン細胞でmTORC1を核周囲へ再局在化させると、部分的ではあるがmTORC1シグナル活性が回復した。以上のことから、Tuft1のノックダウンによるmTORC1の抑制の一部は、リソソームの局在異常に起因することが示唆された。2.Tuft1発現と薬剤感受性についてTuft1発現と薬剤感受性の関係の評価を行った。従来型抗がん剤とPI3K-AKT-mTORシグナルに関連する薬剤に関して、相関解析を行った結果、アルキルリン脂質の経口薬であるperifosine感受性とTuft1の発現量が有意に負の相関を示すことが明らかとなった。Perifosineは多発性骨髄腫および大腸がんにおいて第三相臨床試験に進んだ治験薬であるが、有意差が得られない結果に終わっており、適切な効果予測因子の同定が求められている。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度はTuft1がmTORC1シグナルを正に制御するメカニズムを明らかにするという目的で、年間を通して本研究を遂行した。その結果、Tuft1は小胞輸送を制御することを明らかとし、Tuft1のノックダウンによるmTORC1の抑制の一部は、リソソームの局在異常に起因することを示した。また、Tuft1の臨床応用可能性を探索する目的で、Tuft1発現と薬剤感受性の関係の評価を行った。その結果、アルキルリン脂質の経口薬perifosineに対する感受性と、Tuft1の発現量が有意に負の相関を示すことを見出した。以上のことから、本年度は、当初の計画通り順調な研究の進展が見られたと判断した。
これまでにTuft1は小胞輸送を制御することでmTORC1シグナルを正に制御することを示してきた。次年度は、Tuft1が小胞輸送を制御する機構について、結合タンパク質の探索などにより詳細な解析を進める予定である。またTuft1の発現量とその感受性が相関する薬剤としてperifosineを同定したが、その作用は多岐に渡るため未解明な部分が多く、この点も今後の重要検討課題である。次年度はTuft1の機能に基づいたperifosineの機能の探索と、Tuft1のバイオマーカーとしての応用可能性について検討したい。
すべて 2016
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)