研究課題
本研究では、牛白血病ウイルス(BLV)に対する新規制御法を開発するため、免疫抑制受容体Programmed death-1 (PD-1)およびそのリガンドであるPD-ligand 1 (PD-L1)を標的とした抗体を作製し、BLV感染牛での抗ウイルス効果を評価することを目的としている。今年度は、最終目標であるウシを用いた臨床試験に向け、抗体の大量発現・精製の準備およびin vitroでの機能解析を行った。まず、治療用抗体を発現する安定発現細胞の作製、スクリーニング、1回目の遺伝子増幅処理を行い、現在までに最大135.7 mg/Lの抗体を産生する細胞を樹立した。また、安定発現細胞の培養上清から治療用抗体を精製し、ウシPD-L1への結合性やPD-1/PD-L1の結合阻害能、in vitroにおけるT細胞の活性化能を評価し、改変前のラット抗体と遜色ない性能であることを確認した。今年度はこの他に、2頭のウシを用いてラット抗体(改変前)の投与試験を行い、ウシ体内における持続性、安全性、抗ウイルス効果を評価した。ラット抗体はウシ体内において持続時間が短く、また複数回投与によりアナフィラキシーショックなどの副作用が観察された。さらに試験期間を通してBLVに対する抗ウイルス効果は確認されなかった。これらの結果から、我々が以前から取り組んでいる治療用抗体の必要性が明確になり、今後の研究意義を証明する重要な結果となった。今年度は、BLV感染症が原因となる牛白血病の疫学調査について、2回の学会発表(口頭発表1回、ポスター発表1回)を行い、うち1回で若手奨励賞を受賞した。さらに、BLV感染症の迅速簡易診断法に関する論文をThe Journal of Veterinary Medical Scienceに筆頭著者として発表し、本年5月に掲載される予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度の研究計画では、抗体を高発現する安定発現細胞の樹立、およびin vitroにおける機能試験を予定していた。現在、研究は順調に進行しており、遺伝子増幅処理によって100 mg/L以上の抗体産生量を実現している。作製した治療用抗体のin vitroでの評価もおおかた終了し、改変前の抗体と同程度の機能を持つことを確認した。現在は最終年度の計画内容である治療用抗体の臨床試験に向け、抗体の大量発現・精製に取り組んでいる。さらに、今年度は当初予定されてなかったラット抗体の投与試験にも着手し、治療用抗体の必要性を明らかにする重要な結果を得た。以上から、計画以上の進捗であると評価している。
今後は、さらなる抗体発現量を実現するため、2回目、3回目の遺伝子増幅処理を行い、高発現細胞の樹立に努める。また、1~5 Lの細胞培養フラスコを用いて200~700 mgの抗体を発現・精製し、実際に牛に投与して最初の臨床試験を行う予定である。現在、すでに大量発現・精製が進行中であり、早ければ本年4月に開始できる見込みである。これに並行して、Biacoreを用いた治療用抗体の結合力の評価、BLV特異的T細胞の活性化能など、より詳細なin vitroでの機能解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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