研究課題
本研究では、牛白血病ウイルス(BLV)に対する新規制御法を開発するため、免疫抑制受容体Programmed death-1 (PD-1) およびそのリガンドであるPD-ligand 1 (PD-L1) を標的とした抗体を作製し、BLV感染牛を用いて抗ウイルス効果を評価する。今年度は、in vitroにおける抗体の機能解析とウシを用いた抗体投与試験を行った。まず昨年度に樹立した抗体の安定発現細胞について、さらなる遺伝子増幅処理を行い、222.9 mg/Lの産生量を示す株を樹立した。この細胞は、より高産生に適した培地に順化することで738.1 mg/Lまで産生量を上昇させた。発現細胞から精製した抗体はウシPD-L1への結合能、PD-1/PD-L1の結合阻害能を示し、改変前のラット抗体と同等の性能を示した。さらに、ウシ末梢血単核球(PBMC)に対する免疫賦活効果を調べるため、PD-1/PD-L1経路を介してウシT細胞をin vitroで抑制する実験系を樹立し、作製した抗体がその抑制効果を減弱することを証明した。また、BLV感染牛のPBMCを抗原存在下で培養し、BLV抗原に対する応答が抗体の添加により上昇することも確認した。作製した治療用抗体が改変前と同程度の活性を持つことが確認されたため、安定発現細胞から抗体の大量発現・精製を行い、ウシを用いた投与試験を行った。最初の投与試験は、体重が軽い子牛(200~300 kg)に1 mg/kgの濃度で抗体を投与し、経時的に採血してin vivoにおける抗ウイルス効果を評価した。抗体接種牛から分離したPBMCは接種前に比べBLV抗原に対して強く応答したほか、接種後のプロウイルス量が有意に減少することが示された。以上から、作製した治療用抗体はin vivoにおいても抗ウイルス効果を示すことが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究計画では、抗体を高発現する安定発現細胞の樹立、in vitroにおける機能試験、およびウシを用いた抗体投与試験を予定していた。研究は当初の予定通りスムーズに進行しており、発現細胞の遺伝子増幅処理・至適培地への順化により昨年度の4倍以上の抗体産生量を実現したほか、新たに抗体の機能試験を行い治療用抗体の免疫賦活効果をより詳細に検討した。さらに、大量に発現・精製した抗体をBLV感染牛に投与し、抗原に対するT細胞応答やプロウイルス量を評価して、治療用抗体の抗ウイルス効果を確認した。現在は、さらに試験牛を増やして再現性を取ることを目的として、4~6頭分の投与抗体を準備中である。また今年度は、オーストラリアで開催された国際獣医免疫学会にてポスター発表を行い、さらに、BLV感染症の抗体治療および腫瘍解析に関する研究を論文にまとめ、それぞれPLoS OneおよびClinical and Vaccine Immunologyに筆頭著者として投稿するなど、研究成果の発表にも力を入れた。以上から、計画の進捗は順調であると評価している。
今後は、さらに高い抗体発現量を実現するため、至適培地への順化、培養条件の検討を複数の細胞株で行い、高発現細胞の樹立に努める。また、1~5 Lの細胞培養フラスコを用いて抗体の大量発現・精製を行い、成牛(600~800 kg)への投与試験、より高濃度(~10 mg/kg)での投与、および他剤との併用効果など、今回の再現性試験と抗ウイルス効果を高めるための条件検討を行う。また、BLV感染症に限らず他の慢性疾患を罹患したウシに対する治療効果を評価し、治療用抗体が幅広く効果を示すことを確認する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 産業財産権 (5件)
PLoS One
巻: 印刷中 ページ: -
10.1371/journal.pone.0174916
Archives of Virology
巻: 161 ページ: 985-991
10.1007/s00705-015-2676-8.
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10.1371/journal.pone.0157176.