研究課題/領域番号 |
15J01917
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
一瀬 桜子 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | Aspergillus oryzae / カーボンカタボライト抑制 / α-1,3-グルカン / 二次代謝産物 |
研究実績の概要 |
麹菌におけるカーボンカタボライト抑制(CCR)関連因子である広域制御型転写因子CreA及び脱ユビキチン化酵素CreBの機能解析により、新規CCR制御機構の解明を目指した。 これまでに creA 遺伝子破壊により液体培養時にパルプ状又は小さなペレット状に菌体形態が変化し、菌体量が野生株よりも増加することを明らかにした。菌体量の増加は酵素高生産化において大変重要である。そこで、CCR関連因子遺伝子破壊株における形態変化の要因を解析することで、液体培養時の形態制御におけるCreA及びCreBの機能を解析した。 まず、細胞壁構成多糖の成分解析を行い細胞壁の構造変化を解析した結果、野生株と比較してα-1,3-グルカンの量がΔcreAでは増加し、一方ΔcreB では形態は変化しないものの減少していた。また、α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子クラスターを形成する agsB及びamyD遺伝子の発現量が ΔcreA において野生株及び ΔcreB よりも大幅に増加していた。以上の結果から、CreAとCreBは細胞壁合成の制御に関与しており、さらにこれまでα-グルカン量の減少により形態が変化すると報告されていたが、本研究より形態変化にはα-グルカン以外の新規形態制御因子が関与する可能性を見出した。 また、麹菌は多数の二次代謝産物生合成遺伝子クラスターを有している。二次代謝産物の生産はCCRの制御を受けることが知られているものの、CreAとCreBが関与しているかは不明である。そこで、二次代謝産物の高生産化を目指して、creA及びcreB遺伝子破壊による二次代謝産物生産制御への影響を解析した。 二次代謝産物のコウジ酸とペニシリンの生産性を解析した結果、野生株と比較してΔcreBとΔcreAΔcreBではコウジ酸の生産性が低下し、一方ΔcreAΔcreBペニシリンを高生産した。以上の結果より、CreAとCreBは麹菌における二次代謝産物の生産制御に関与しており、二次代謝産物によってその制御機構は異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カーボンカタボライト抑制の制御メカニズムを解明するために、CreA及びCreBの機能解析を行った。本年度は液体培養時の菌体形態の制御機構及び二次代謝産物の生産制御機構におけるCreA及びCreBの機能解析を行った。 これまでにCreAとCreBはアミラーゼやキシラナーゼなどの多糖類分解酵素の生産制御に関与していることは明らかになっているものの、細胞壁構成成分の制御や二次代謝産物の生産制御に関与しているという報告は今までにない。そのため、本研究においてCreAとCreBの新たな機能を初めて明らかにすることができた。 また本研究の結果からもわかるように、CreAとCreBは様々な因子の制御に関与している。そのため、CreAとCreBの新規制御下因子を同定するためにマイクロアレイ解析により網羅的に探索を行った。その結果、creA遺伝子を破壊することで野生株やcreB破壊株と比較して多くの遺伝子の発現パターンが変動しており、その中でCreAの新規機能に関与すると考えられる因子を見出すことができた。今後はこれらの因子の破壊株や高発現株を作製することで、より詳細なCreAの機能解析を行うことができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新規カーボンカタボライト抑制の制御メカニズムを解明するために、CreBの機能を解明する必要がある。これまでにCreBに関する詳細な機能解析は行われておらず、その機能には未知な部分が多い。そのため、今後はCreBの機能解析を中心に進めていく。 本年度はCreBの細胞内局在を観察するためのGFP融合CreB株や、CreBと複合体を形成するとされているCreCとCreB間の相互作用を解析するための共免疫沈降法に用いるタグを融合したCreB及びCreC株などの、CreB機能解析に用いる形質転換体を取得することができた。さらに、CreBが制御する新規標的因子探索のためにタンデムアフィニティを行うためコンストラクトの作製も完了しており、これらの株を用いてCreBの機能を網羅的に解析する予定である。 さらに、今年度行ったcreA及びcreB破壊株におけるマイクロアレイ解析の結果から、CreA と CreB の新規標的因子と考えられる因子が同定されてきた。そこで、同定した新規因子の遺伝子破壊株や高発現株を作製することで、CreAとCreBの機能解析を行う予定である。
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